10代ホスピス患者から学ぶ 人生を生き切るヒント

ホスピスに勤めているときに出会った10代男性の患者さんから、人生を生きる学びを頂いたので、お話したいと思います。

彼がホスピスに入院した時、身体的にはかなりしんどい状況でした。
ベッドから起き上がった後もしばらく休憩しなければ移乗できず、排泄もやっとの思いでベッドサイドに設置したポータブルトイレに全介助で移乗していました。
何名かのナースは、彼に尿バルーン留置を提案していましたが、頑なに断っていました。
大抵の患者さんはしんどさから、尿バルーン留置の提案を受け入れる、もしくは希望する状態なのに、なぜだろう。
彼の中で何か大切なものが、隠れているんだろうかと感じていました。

ホスピス病棟のナースは、40~50代で彼にとっては親世代が多かったので、唯一20代だった私は、「言いにくいこととか、話し相手が欲しかったら言ってね」と言うと「ありがとうございます」と丁寧に対応してくれ、雑談もするようになりました。

ある日勤帯で彼を受け持った時に、アクティビティーであるヨガへの参加を尋ねました。
彼は「僕にもできるかな?」と聞き、私は「できると思う」と答えました。
すると彼は「じゃあ、挑戦しようかな」と。
挑戦・・・。身体もしんどく、頭もぼーっとしているはず。
私は少し彼の気持ちを引き出してみようと考えました。
「どこからそういった気持ちが出でくるの?」と尋ねると

彼は言いました。
「今の僕に、まだできることが残っているなら、それをやってみたい。」

彼に残された時間は、日にち単位でした。
患者さんは、ほとんど、自分の残り時間を体感で感じています。
その中でこの言葉を言えることへ尊敬しかありませんでした。
そして、彼が人生を終えるには、ここをサポートする必要があると捉えました。

そこから私は、チームへ彼の言葉を共有します。
緩和ケアでは、身体的苦痛を取り除くのが一番の看護になります。
ですが、彼にとってはしんどくてもできることはやりたい。助けられながらやりたいのです。
そうして、私たちはバルーン留置を提案することはなくなり、安全への配慮を十分に彼の様々な希望が叶うようサポートしました。

彼が亡くなった時、お見送りに立ち会ったナース全員が泣きました。
でも、私は泣きませんでした。だって、彼は最後まで自分の人生を生き切ったから。
彼は人生を全うしたと感じました。ご家族もきっと誇らしいだろうと思いました。

それから、7~8年たった今、彼の言葉を実感しています。
結婚・出産・育児をする中、できていたこと・やれていたことが、やれなくなる・すごく制限されると感じることがあります。
世間から置いていかれたような感覚やまるで透明人間になったかのように感じることもあります。

今の私にできることがあるなら。できる時に精一杯やろう。
そうすれば、きっと後悔しない。やり切ったと言える人生になる。
彼の言葉が私の背中を押してくれています。


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