見出し画像

◆ アンインストール ◆



4月某日、女友達が経営するカフェへ、珈琲を飲みに行った。20代青年男子が、珈琲を飲み終わったところに入ってきた。

「久しぶり~、どうしたん痩せたじ」
シュッとした男子に、隣に座れと言わんばかりに声をかけた。
青年男子はスマホを取り出し、
「この頃から15キロ痩せたんすよー」

若い男子の語尾に、50代熟女は、
「彼女喜んだやろ~」
と、若い恋愛話を聞きたかったのだが、
「それが、、、別れたんすよー」

もういいわ。
「ところで、どんなダイエットしたん?」
話題を変えて食いぎみに訊いた。

「グルテンフリーダイエットです」
言いきる男子。やりきった感があるのだろう。何でも訊いてくれたら応えますよという顔をしている。
「どれだけの期間で15キロや」
「グルテンフリーって、パンとか麺類食べんのやろ」
矢継ぎ早に訊いた。

あの青年がダイエットに成功したなら、私にもできるだろう。ダイエットアプリをインストールする。
翌朝、『パン、コーヒー、苺』と入力する。

『わたしと一緒に頑張りましょうね』
アプリから女性カウンセラーの吹き出しが出る。
『野菜が足りませんね。昼は補って下さいね。そして、たんぱく質が足りませんね。1日の摂取量は、、、』

自粛生活でキッチンに立つ事が多くなった。昼食を済ませ、2時頃から冷蔵庫を開く。ゴボウを切りながら、コンロでジャガイモを茹でる。ゴボウと人参のきんぴらを作った。シャキッシャキッと、火の入りバッチリ。美味しく仕上がった。
ジャガイモが茹で上がり、熱い間に潰す。ひき肉を炒め、混ぜて丸型に成形する。ちょっと味が薄いかな?と、途中に塩胡椒する。

誰とも話をしなくても、アプリからは催促のメッセージがくる。
『昼の入力がまだですよ。どうされました?』

自粛生活で、ダイエット成功を夢みていた。
何がグルテンフリーダイエットじゃ。
スマホの画面を長押しした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?