手帳は特別なランジェリー
自分の手帳を、まじまじと見る。黒一色、サイズは縦14.5cm、横9cm。私は、76年の歴史を持つ『能率手帳』を愛用している。(商品番号 1218)
この手帳を初めて手にしたのは、38年前の就職して1年目。所属する企業から、全員に無料配布された社名入りの能率手帳だった。女性の多い職場で、この手帳を持つ人は少ない。「なんで使わんの?」と同期に聞いたら、「可愛くないから」と返ってきた。私は、可愛いとかより機能を重視していた。週間レフト型の手帳で、時間メモリがあり、手帳を開くと右側は全てフリースペースになっている。バブル崩壊、経費削減で、配布されなくなった。今では同じタイプの手帳を自分で購入している。
2015年に1度だけ、副業しようと、新しい手帳にシフトした。「夢が叶う」「未来予約」「約束手帳」等、キラキラしたネーミングの手帳の中から一冊を購入した。
「100万円あったら、何に使いますか?」「叶えたい事を100個書きましょう」「1年後の自分を想像して、声をかけましょう」「今月やめたい事を5つ書きましょう」「今日1日の自分を褒めてあげる出来事を書きましょう」
もう勘弁してー。3ヶ月続けてみたけど、手帳に振り回されている。こんな恥ずかしい手帳を紛失したら、夢が叶うどころか笑われてしまう。2015年冬、自分で処分した。
歴代の手帳を並べて、写真を撮ってみた。なんだかニュースで見る、下着泥棒が盗んだ品物をブルーシートにレイアウトした画像に見えてきた。
そうだ、私にとって手帳は、下着みたいなものだ。見られると恥ずかしいもの、人の手帳(下着)には興味があるけど、見せてとは言いにくい。
見せないお洒落手帳(下着)、見せ手帳(下着)、勝負手帳(下着)。上級者の女性は、ランジェリーとして手帳を持つ。実にしっくりとくる、私なりの解釈。
来年の手帳を購入した。勿論、能率手帳。下着に見えてきた手帳を、ちょっと可愛くしてあげようと、レースのマスキングテープでデコレーションしてみる。縦幅14.5cmのヘソまで隠れるパンツに白いレースが似合う訳がないのと同様に、無理に化粧させられた黒い手帳が泣いている。ごめんね、こんな恥ずかしい思いをさせて。似合わないレースのテープを、剥ぎ取ってやった。
もう私は、この能率手帳が馴染んだ身体になってしまっている。共に歩いた37年。私が手帳(下着)を変える時は、心身共に変化がある時だ。未来約束手帳が、お迎えにくる日を夢みよう。
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