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脳内ノイズを除去して"作ること"に集中する

 昨年とその前は振り返ることもなく年の瀬を生きていたのですが、今年は個人的にメモリーが多かったので、大なり小なり記憶に残っている事柄をいくつかピックアップしながら来年に向けての照準を合わせたいと思います。特に日本映画の人たちにとっては色々な物事がいちどきにやってきた2022年。この流れは緩むことなく、来年以降も我々は戦い続けなければならないだろうと勝手に予測しているので、まあ焦らず着実に、足元を固めて行きたい所存です。

1. 人生初の劇場公開 『マイライフ、ママライフ』

 やっぱり大きかったのは、初めての劇場公開という通過儀礼。宣伝活動においてそれまでの自主制作作品とは違い自由に動けない部分も諸々ありつつ、取材や舞台挨拶に立たせていただく時間の貴重さ、大変さ、難しさを改めて体感しました。短い、限られた時間の中でどうお客様とコミュニケーションしていくか。わたしにとってはこの「コミュニケーションの質」というか、考え方・向き合い方が非常に試された時期だったなぁと、マイママの時期を通して今もなお自省するべきことが多々あるなと感じています。

 「届けたいお客様はどこにいるのか」
 「届けたい人がいるところにダイレクトに届けられているか」
 「そして彼らにきちんと伝わるコミュニケーションができているか」

 映画『マイライフ、ママライフ』を作り始めた2018年から考えていたことが果たしてきちんと出来ていたか、後悔と反省で生き埋めになりそうな22年春でしたが、、、まあなんとかまだ息が出来ているので。次こそは。

2. プチョン国際ファンタスティック映画祭、および釜山国際映画際での 『LEFT HAND OF THE DEVIL』のピッチ

 昨年に偶然の出会いを掴み取り企画が動き始めた新作の国際共同製作作品『LEFT HAND OF THE DEVIL』。きっかけは話が長くなるので今回割愛しますが、この作品のグリーンライトを灯すべく、今年はあちらこちらへと奔走した年でもありました。

 限られた時間の中で、コンパクトかつ明確・的確に作品の魅力を伝える「ピッチ」というものにここでも人生初めて挑戦し(しかも英語で)、日本で映画やドラマの企画を考える時に組み立てる方向性とはまた違ったベクトルでの企画プレゼンの在り方・作品の魅力の捉え方を、実地でひとつひとつ勉強させてもらいました。渡韓前に事前にVIPOさんから参加させていただいたピッチレクチャーは英語で行われたものでしたが、なんとか亀山も理解ができるレベルのすごくシンプルで分かりやすい講義で、これ無しには映画の企画ピッチには到底挑戦出来なかっただろうなと思います。VIPOさんマジ感謝。

 あと、マーケットでのピッチに挑戦するにあたって、英国・アイルランドのプロデューサー陣とも何度も企画をブラッシュアップし、作品について、作品に盛り込みたい日本の要素について話が出来たのは単純に「そう、これこそが企画開発だよね」とも実感させてくれる、とても幸福な時間でした。あの人たちが意外と働き者だったり、そうかと思うとちゃんと休暇がっつりとってたりメリハリのある生き方をしているのも素敵だなと思ったし、そういう人たちと今同じプロジェクトに関われていることが非常に光栄です。プチョン、そして釜山で何か直接の収穫が即日あった訳ではないですが、この知見=「新作の企画をいかにして実現可能性の高いものにするか」というアイディアは、きっとこの先の映画人生でも強い武器になるものなんだろうなと感じています。

 こうした打席に立たせていただける日が来るとは10年前の自分は全く想像もしていなかったので、まず第一に、今日までダラダラ続けている英語の勉強の最初のきっかけをくれた両親&母方の祖母、そしてこのダラダラオンライン英会話を今日まで続ける努力をした過去の自分にもマジ感謝です。

3. 映画界隈の若手有志との勉強会

 厳密にいうと今年は2回しか実施出来なかったのですが、まずは春に「インティマシー・コーディネーターの仕事を知る」そして秋に「性加害・セクシャルハラスメントに関する法律を勉強する」というテーマで勉強会を開かせていただきました。今年の3月から湧き起こった数々の出来事たちをきっかけに「自分の作品とスタッフを守るために、今の自分は何も知らなさすぎる」と痛感したことが勉強会の発端だったのですが、第一回を開いたのちにまた「次回こういうことを話しあいたいです」とおっしゃってくださった俳優マネージャーの宮田さんと繋がって第二回を実施。そして第二回で出会った方々と再び、今度はまた違ったテーマでも勉強したい、となり第三回の実施が決まりました。

 この勉強会を通して自分にとって「話の通じる方々」と出会えていることが、非常に、なんと言いますかセレンディピティのようにも感じられています。これは普段のクライアントワークのみの日々ではなかなか実現しないもので、やっぱり、自分から新しい人を集めにに行かないと生まれないものなのかもしれません。もとは単なる勉強の場として作ったこの会から、「同じ環境を目指している方々」と出会い、もしかしたらいつか同じ作品を作れる日が来るかもしれない。まだそれは確実ではないですが、こうして皆で知識を貯めあって高めあったその先に「作品作り」という理想の景色が実現したならば、これほど幸福なことはないかもしれません。

 我々若手世代の連帯と共創が、いつかこの「古き日本映画界の体質からの脱皮」を導いてくれたら、などと夢想してもいます。

4. 『世界で戦うフィルムたち』5.1ch仕様での仕上げ作業

 あまりにも具体的な出来事なんですが、これも個人的にはかなり印象の強かった贅沢案件でして。

 これまで、自主制作や『マイライフ、ママライフ』では2ch仕様までしか扱ったことがなかったんですね。なんのことやら…?って感じだと思いますが、単純に、「スピーカーが2個で済む音か、6個必要な音か」って違いです。(本当はもっと複雑且つすげー違いがあるんですが………割愛!)で、今回ドキュメンタリー映画の『世界で戦うフィルムたち』の音声の仕上げ環境はなんと5.1chが制作できるマルチMAスタジオでやらせていただいたという…!

 仕事で何度もステレオのスタジオは入っていましたが、5.1chは正直ほぼ初めてだったので、音の聞こえ方?音圧?の違いにもう耳が大興奮でした。それだけ気合いの入った音を音響の松野さんにも劇伴の今村さんにも仕込んでいただいていたんだろうなという感じで大感謝なのですが、いやはや、これだけの贅沢環境で作れるチャンスはあと人生何回あるのだろうか……?(「これからずっとこうなるよ!」みたいなポジ発言をしてくださる方もいらっしゃいますが、亀山は常に「これが人生最後……」と腹を括るタイプの人間なので、、、)

5. 余談)自宅にソファを実装

 つい最近まで自宅の環境にはほとんど興味のない人生を送っていたのですが、ほとほといい加減、読まなければならない本が溜まりすぎてきたのでようやく「本を消化するためのソファ」を導入しました。小柄体型にちょうど良い、座面狭め、クッション硬め、長時間座っても疲れないタイプの最高のやつです。こいつで早速本をガシガシ読んでやるぜ!と意気込んでいたのですが、今のところは宿題のドラマを見るためのごろ寝ソファと化しています。…まあそんなもんか。


来年は|ノイズを除去し脳を穏やかにさせてやりたい

 2021年はありがたいことに、人生のうち97%くらいの時間を「作ること」に割いていました。

 もともと制作会社勤めなんだから、当たり前だろうと言われてしまえばそれまでなんですが、でも珍しく「映画を作ること」だけに注力した時間を過ごせていて、非常に非常に貴重な時間だったなぁと噛み締めたりしています。願わくば、この時間が私の人生の中でなるべく長く続きますように…とも。

 反面、まだ一本しか長編映画を世に出していない(=公式に劇場公開していない)新米監督身分の私が、こんなことを思うのもいやに贅沢な話なのですが、作品にまつわるニュースが出れば出るほど、亀山睦実という名前が人様の目に触れれば触れるほど、「ああ、嫌だな、本当は誰にも知られずひっそりと作り続けたいだけなのにな」という思考も頭をもたげます。

本当に贅沢。
何言ってんだお前って感じ。

 昔はもう少し違う感覚もありましたが、会社に勤めて映像制作をクライアントワークとして経験する中で、「映画監督として名前が売れなくても生きられる」という価値観が私の中にインストールされてしまったせいもあるかもしれません。

 しかしこの「会社員」というステータスの恩恵は凄まじい。まず第一に、「生きるためのお金に脳みそを費やさなくて済む」というのは何よりも心身の安定に影響を与えるものです。この六年間、こうして会社員として生きる中で改めて痛感しました。これもある種別の意味で「ノイズの除去」に大成功している、とも言えます。(とはいえ月給に余剰があるわけではなく、あくまでも「一人で生きるには困らない」というレベルを低空飛行中。元々生活切り詰めてバイト代で映画やってた人種なので、生活水準はそこそこに低い…)

 平穏に映画作りがしたい。物語を作りたい。それこそが私がやりたいものの根幹であり、売れることなど心底どうでもいい。
 しかし困ったことに、売れなければ、名前が広がらなければ映画は作り続けられないらしい。

 近頃は、気を緩めるとこの爆音のノイズが脳を埋め尽くしてしまって息苦しくなることが頻発するようになりました。来年は、『世界で戦うフィルムたち』の公開と、まだ先送りになってしまっている『12ヶ月のカイ』の公開も控えているので、このノイズにどう対処するか、受け入れるのか切り離すのか、一刻も早く方向性を考えなければならない。その答えを自分自身で出せるかどうかが、ひとつの大きな壁にもなるような気がしています。

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