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白のふわふわ。


デパートの屋上に行ったら
強い風にあおられて、今にも飛ばされそうないぬがいた。

ハンチングをかぶった男の子が近づいて
ミルク色の風船を取り付けたので
いぬは空にふわりと舞い上がり、みるみる小さくなってしまった。

「ちょうどいのちがつきるとこだったんだ」
ぼくはその子が言った言葉を素直に信じることはできなかった。

男の子は、おかあさまに
さっきのいぬのようにふんわりした綿菓子をねだっている。

いいとこのぼっちゃんらしいその子は
綿菓子にかぶりつくことを許されていない。

「お家に持って帰ってから食べましょう。
 きちんと包んでくださるかしら」

登場したのは、さっきのいぬの包み紙。
そっとそっと白いふわふわを包もうとすると
ちらりとしっぽを振ったように、みえた。

包まれた瞬間、泡となって消えてしまったけれど
男の子は、涙も見せずに
おかあさまと手を繋いで、家に帰っていった。

地下のお菓子売り場では、白いお菓子が並んでいる。
メレンゲ マシュマロ ブール・ド・ネージュ

ここでもシャンプー中のいぬのような包み紙。
店員さんがリボンをかけると、嬉しそうにほほえむ。

抱える女の子の腕の中で、小さくわんとほえたように
空耳した、日曜の午后。

甘ったるい匂いでみちみちた空間には
しあわせの雲がぽこぽこ浮かんで、スローモーション。

ぼくもあの子に、何かプレゼントしようか。




モノ カキコさんのイラスト見てるうちに
書いてみたくなった、小さなものがたり。
ありがとうございます💛

ホワイトデイに、ふわふわを。


いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。