いちご惑星amane

#いちご惑星 🍓5 苺一会


 今日は彼とお花見の約束をしたから、御弁当を作ってるの。
 めっちゃ早起きして、私の全総力を結集して。

 あさり入りの炊き込みご飯を、ちいさな俵型のおにぎりにしたりね。
 たまごやきを花形で繰り抜きながら、切れ端を味見して、おいしいか確認。

 そして、忘れちゃいけない。季節に合わせたフルーツも準備する。
 早春には、やっぱりいちご。
 そう、苺の季節に出逢って、恋に落ちたから。大切な果実。

 弥生、三月。苺がだいすきな私はこう考える。
 苺のことを想うなら、今、ここで季節が止まってもいいんだ。
 いつまでも、このままいられたらしあわせ。

 今あなたは、私のことをとってもすきでいてくれる。
「あまずっぱくて可愛い」って言ってくれる、この瞬間。
 この先は、ずっと同じでいられないかもしれない。
 100%すきなのは、きっと今だけだ。
 こうしているうちにも、0.001%ずつ減っていってしまうんだよ。

 ばかだなぁ。ってほっぺひっぱられるのわかってるけど。
 あなたが「ずっとすきだよ」って言ってくれるの、知ってるけど。
 
 でもね、今でも、あなたの周りには取り巻きがいて、心配なんだもん。

 私のなまえは、一子《いちこ》。彼は私を「いちご」と呼ぶ。
 彼の苗字が「甘井」だから、より運命を感じたのは確かかな。
 わたしは、甘井一子《あまいいちこ》になりたい、いちご。

 勝手に彼を知って遠くから見つめていたら、お誕生日サプライズ企画のウェブ広告が目に入って、応募しちゃった。
 司令塔は彼のおばあさま。宇宙の未来を見据えてるスーパー魔法使いなの。指先からビームが出る系の。

 そう。私の別の名は、いちご姫。
 そばにいたくて、苺型ロボットになって、彼を近くで観察してた日々がなつかしい。
 彼はいつもいちごのために、がんばってくれたなぁ。わがままばかり言ういちご集団だったのにね。

「その子は、大切なんだ」
 あの時言ってくれた言葉に、きゅんとした。すごく真剣な目をして。
 そして、そのあとこっそりささやいてくれた。
「姫のことを想うなら、今ここで全てが止まってもいいんだ」
 君がぼくを愛しているなら、尚更。伝わってきた心の声。
 
 別にね、あの苺には惚れ薬なんて、ほんとに入ってないよ。
「ここで一緒にフリーズしちゃおうか。ブリーズドライな、さくさく苺」
 私の定位置は、ずっと胸ポケットの中。
 一粒だけの特別ないちご。
 どきどき鼓動が伝わる、あたたかい場所だった。

 でも、あの時は! みみずくのクノイチゴが彼に近づいた時は、はらはらしちゃって、食事も喉を通らなかったわ。
 ジェラシーのいちごスプーンで押しつぶされてしまいそうだった。

 だってね、まさか、いきなり口に入れちゃうとか、びっくりでしょ? 
 みみずく、レロレロのメロメロだったじゃない!(羨ましいったら。)

 だから、私は人間の女の子に戻ったの。圧倒的に優位に立つんだって。
 勇気を出して、ちゃんと人として出逢って、こっちを向いてもらった。
 
 やっと渡せたよ。何年間も渡したかった、チョコとプレゼント。

 苺一会《いちごいちえ》は、いちご惑星界の言葉。
 私には、あなたという新しい星が迎えてくれた。
 ほんとうのお姫さまになりたくて、あなたの前に現れた。
「はじめて会う気がしないね」
 彼は照れながら、そう言ったっけ。

 その時の彼の心には、ぽっかり穴が空いていたの。
 いきなり不在になった胸ポケットを、何度も手で確かめていた。

 彼は苺を食べる時、まずなめる癖がついちゃってる。
 かじってロボットだったら、可哀想だからだね。
 私のことも恋人になった時、ちゅうより先にぺろってしたよね。
 君はいちごの匂いがします、って。

 苺型ロボットたちはね、気に入っちゃって、みんなまだ変身したまま楽しんでるの。
 え、人間界で捜索願が出されてないのって? 
 不在中はみんなの記憶にぼんやり霞がかかる魔法がね、かけてあるから大丈夫。

 来月は、第2回ストロベリーフェスティバルが開催されるんだよ。
 イースターマゴたちとね、フォークダンスの競演があるの。最近、彼の部屋でみんな練習してるー。
 私が苺ロボットたちが見えるのは、まだ彼には内緒。時々吹き出しそうになっちゃって困るんだけどね。

 一晩中踊り明かすお祭り。きっとベリーたちも遊びに来る。
 いいなぁ。私もあなたと手を取り合って一緒に踊りたい。どきどきしながら。
 そろそろ、見えること、告白しちゃいましょうか。

 そして、またいつか、あの頃の思い出話をしましょう。


 お・わ・り。  チキチキチー。



いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。