僕と君 11 うちにいるくま
ママはテディベアファン。
こぐまの映像にかわいいと反応しているけど
本当にすきなのは、架空の世界のくま。
絵本の中やぬいぐるみのくまが、だいすき。
それは、娘の君にも見事に伝染してる。
「くまの子ウーフ」「くまのパディントン」「クマのプーさん」
「よるくま」「パンやのくまさん」etc.etc.
世の中の絵本ぐまたちは、ものすごく愛されてるな。
パディントンなんて密航してきて
ダッフルコートまで着てる冒険ぐまだよ。
そして、ほんとにはちみつとかマーマレードずきなのか、くまさんは。
あ、くまさんって言ってしまった、つい。
結構「さん」づけなんだよな、くまって。
まあ、パンやのくまさんに至っては
ゆうびんやさんとか色んな職業についてる働き者だ。リスペクト。
*
うちは2階にキッチンとリビングがあって、ここでくつろぐ。
1階はママの仕事部屋、3階がベッドルームなんだけど
よくママは「1階には、くまちゃんが住んでるの」と作り話をする。
そう、1階のくま伝説。
くまちゃんは困った時に、そっと手伝ってくれるんだ。さりげなくよ。
今日はいつのまにか、床に掃除機をかけてくれたの。
ほら、いま、かさこそって音がしたでしょ? いるのよ、くまちゃん。
すると、君は目をまんまるくして
「すごいね、くまちゃん。えらいね」って言う。
「くまちゃん、2階には上がって来ないの?」
君が聞くとママは
「すっごいはずかしがり屋なんだよね。
ママだって3回しか見かけたことがないくらい」
君が寝た後、ママはぽつりとつぶやく。
くまちゃん、ほんとにいてほしいなぁ。
自分で話してて、時々本当にいるような気がしちゃうのって
夢見る少女の瞳で言う。
それは、暗に、もっと僕に活躍しろってことなんだろうか。
*
今夜、寝る前に選ばれた絵本は「くまくまちゃん」
山奥の小さな一軒家で、のんびり生活しているくまだ。
あわあわした日々を送ってる僕からすると、理想のくまだな。
やつは、日が暮れる頃、空がいつまっくろになるのか観察するんだよね。
そういえば、こどもの時はもっとよく空を眺めていたな。
家の近くの坂から暮れゆく大きな空を仰いで、オレンジ色を受け取る。
そして、暗くなる前の少しずつ淡い青が、段々と濃くなる時間。
空の、空気の変化を見つけるのがすきだった。
毎日あっという間に日が暮れて、気がつけばもうすっかり夜。
いつも、ただのまっくろけ。
ねえ、君は今日も公園で空を見たかい?
もし見たのなら、僕に聞かせてくれないか。