僕と君d

僕と君 11 うちにいるくま


ママはテディベアファン。
こぐまの映像にかわいいと反応しているけど
本当にすきなのは、架空の世界のくま。

絵本の中やぬいぐるみのくまが、だいすき。
それは、娘の君にも見事に伝染してる。

「くまの子ウーフ」「くまのパディントン」「クマのプーさん」
「よるくま」「パンやのくまさん」etc.etc.
世の中の絵本ぐまたちは、ものすごく愛されてるな。

パディントンなんて密航してきて
ダッフルコートまで着てる冒険ぐまだよ。

そして、ほんとにはちみつとかマーマレードずきなのか、くまさんは。
あ、くまさんって言ってしまった、つい。
結構「さん」づけなんだよな、くまって。

まあ、パンやのくまさんに至っては
ゆうびんやさんとか色んな職業についてる働き者だ。リスペクト。

うちは2階にキッチンとリビングがあって、ここでくつろぐ。
1階はママの仕事部屋、3階がベッドルームなんだけど
よくママは「1階には、くまちゃんが住んでるの」と作り話をする。
そう、1階のくま伝説。

くまちゃんは困った時に、そっと手伝ってくれるんだ。さりげなくよ。
今日はいつのまにか、床に掃除機をかけてくれたの。
ほら、いま、かさこそって音がしたでしょ? いるのよ、くまちゃん。

すると、君は目をまんまるくして
「すごいね、くまちゃん。えらいね」って言う。

「くまちゃん、2階には上がって来ないの?」
君が聞くとママは
「すっごいはずかしがり屋なんだよね。
 ママだって3回しか見かけたことがないくらい」

君が寝た後、ママはぽつりとつぶやく。
くまちゃん、ほんとにいてほしいなぁ。
自分で話してて、時々本当にいるような気がしちゃうのって
夢見る少女の瞳で言う。
それは、暗に、もっと僕に活躍しろってことなんだろうか。

今夜、寝る前に選ばれた絵本は「くまくまちゃん」
山奥の小さな一軒家で、のんびり生活しているくまだ。
あわあわした日々を送ってる僕からすると、理想のくまだな。

やつは、日が暮れる頃、空がいつまっくろになるのか観察するんだよね。

そういえば、こどもの時はもっとよく空を眺めていたな。
家の近くの坂から暮れゆく大きな空を仰いで、オレンジ色を受け取る。

そして、暗くなる前の少しずつ淡い青が、段々と濃くなる時間。
空の、空気の変化を見つけるのがすきだった。

毎日あっという間に日が暮れて、気がつけばもうすっかり夜。
いつも、ただのまっくろけ。

ねえ、君は今日も公園で空を見たかい?
もし見たのなら、僕に聞かせてくれないか。


⇒ 『僕と君』 12 ミエッパリな園児たち


いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。