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夜のにぎやかな街は、色であふれている。 ほら見て、とばかりに カラフルな灯りが、揺れて自己主張する。誘いかける。 君は待ち合わせ場所にぽつんと立っていた。 喧嘩したから今夜は来ないだろうと、俺は遅れて着いた。 たとえ何時間待っていたとしても、素知らぬ顔して 「待ってたわ」なんて言わないね、君は。 その癖、人一倍さみしがり屋で、涙を隠している。 わかっていて、俺は放置しておく。 目が合えば、互いに謝ることもなく、ただ手を繋ぐ。 君が言う。 私が途方に暮れるほど、あなた
酔ったかな。 視界が揺れる。カメラがブレル。 坂道を転がるように、君の背中が揺れ動く。 夜の街、ただただあちこちでシャッターを切っていると いつのまにか、君とはぐれてる。 さっきあの角を曲がったのを見た。その先はわからない。 まあ、いいか。 運命というものがあるなら、また会える。 あいつはいつだって自由にどこかに行く。俺もそうだ。 写真を撮るやつらは、みんなそうだ。 好き勝手に散らばって自分の世界に入り込んでいく。 気が済んだら、また集まる。 暗黙の了解。それが心地い
車のウィンドウに映る、夜乃列車 光のラインは白い貨物車両になって、カーブを切る。 斜め45度に狙いを定めて弓を引けば、いつしか空の果て 上空ではブーメラン型のカモメが迎えてくれる。 羽をもらったら、水面すれすれに滑空して、またここに戻っておいで。 春になったらその白い背中に乗って、花びらと共に舞い降りるんだ。 くる、くる、ぐる、くるり。
夜毎チェスを楽しむ輩が出現するそうだ 今夜も夜も更けて来る頃 カチリとしたグラスの氷の音だけが聞こえてくる。 とうとう小さなチェス盤じゃものたりなくて チェステーブルを特別注文したんだろうな その勝負はいつから始まったんだっけ いつともしれず、いつ終わるともしれず キャッスリングという名で、王様を守ったつもり つめたいクイーンのまなざしで、敵を蹴散らしたつもり 毎晩グラスを空けながらの勝負は、永遠に続いていく さあ、いつ聞けるんだ チェックメイトの掛け声は いつま
釣り針はやはりJの形 こっちにおいでと引き寄せる かさかさと掻きよせられて 揺れて織り成す光 折り重なる光 それは糸に似て 襟元をひとさしゆびで、ぐっと捕まえたなら いちばん近くに体温を感じてしまう 先に釣られた方が魚の役目 針をはずすまで、君はじっとしていて
夕闇、宵闇、口ずさむ呪文のよう。 ゆうやみ、よいやみ、平仮名にすると甘ったるくなる。 落ちていく陽と 昇っていく月が シーソーに乗ってるみたいに バランスを取って。 まるで、流し絵の具みたいに ♩が行進する。 はりきって誘いかける音符 ここに似合う音楽は何。 そっと腕を組んでくる君は いつものように悪びれることもなく、甘えた目をする。
ガーデンプレイスを照らす灯が、模擬月 天井から誰かが吊るしているから、ちょっと震えてる いや、そのカーブは ちょうちんあんこうが燈した光にも似て 実はここは、深い深い海の底 底知れぬ闇を照らす、海の月の代わり ふと現れたのは 深海に沈む、かつての神殿なのかもしれない 道理でさっきからうまく進めないんだよね まるで、水の中に身体を囚われたように 今朝見た夢の中で、ひたすら君を追いかけたように
酔うとアイス、食べたくならない? 彼女が聞く。言われるとそんな気になるね。 宇宙ロケットみたいな、アイス屋の看板が光ってた。 乗組員、準備はいいですか。クレープ号発進します。 いや、それとも、肩に担いで 俺ごとマリンロケット、夜空に打ち込もうかな。 寓話のつもりで、熱こめて話してたのに 呆れたような君の視線がイタイ。 チョコレート、口の周りにいっぱいつけた奴に そんな目で見られてもな。
彼女が言う。 腕時計をするのが、拘束されてるようで 嫌になったのは、いつからだったかな。 急に重さを感じたんだ。人との関係と同じに。 だから、はずした。私はあなたの物じゃない。 なのに、誰かに囚われたくなる矛盾。 まだ8時だ。帰さない。 私もわからないの。 迷っていても、ここにいて。
写真展を見終わって、気に入った1枚について語り合う。 それは、偶然にも同じ写真のことであって 俺たちは、何度もその前を行き過ぎた。 他の写真を見ても、そればかり気になって また舞い戻ってしまう。 それは雪の写真だった。 ただ静かに道に降り注ぐ、白くぼぉーっとした点。 * いつものビアガーデンで 二人して黒ビールでほろ酔いになり、外に出る。 見上げた空には、月だ。 今夜は満月。 群青の空に吸い込まれてしまいそうな、まるい形。 「心許なくなるね」と、君が言う。
長い通路の床タイルに、光が射し込む。 駒を置きたくなるような、白と黒の交互の模様。 大きなチェス盤のよう。 今日はまるで夏の光だ。だが、風が心地よい。 光のラインが落とす、光の影の遊び。 揺れるたびに、動かされる気がする。 なあ、この模様、あれだ。おまえの「のり弁」にそっくりだ。 もうムードないんだからぁ。台無し。 市松模様とか、言えないの? 君がすねてフクレル。今日も面白い顔だな。
いつかの月、恵比寿の月。 俺は、月までの距離を想う。 写真美術館で待ち合わせた。 あいつはいつだって遅れてくるから 日差しを避けて、扉のこちら側で待つ。 まだ開店前のBarが透けて見える。 あのジャケットの曲、どんなだっけな。 早くも酒瓶が振られる夕闇の時間を 写真展を見た後のことを考えてしまう。 焦って走ってくる姿が ガラス越しに見えて手を振る。 どっから走り始めたんだろう。 精々50メートル先か。