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慟哭と憎悪と、それしかないのと

私には6才離れた弟がいる。

私たち、或いは私の両親は彼が生まれて2年くらい経った頃、私が小学校低学年の頃から不仲になり、その後氷河期ならいいものの、時折氷山が活火山になるものだから、私たちにとっては、一部迷惑極まりない存在でもあった。

私は20才で家を離れたが、弟が高校を卒業を機に両親は離婚し、弟は理由は色々とあろうが、今も母と2人、生家で暮らしている。ちなみに私は遠方に嫁いでいて駆けつけるにも半日かかるため、喪主は彼に任せてある。

3年前の3月、父親は逝去した。

父は離婚直後、私たちが子供の頃、私の家の工場(自営業だった)に出入りしていた16才下のバイク仲間の女性と再婚した、というよりは20年間、家庭に内密で付き合っていた女性と正式に夫婦になったという方が正しい。

私は後妻からの訃報で家に駆けつけたが、母方の実家に行くと、弟は、僕は葬式に行かないと言った。私も、彼には両親、こと父親への良い思い出がなく、母親に寄り添う気持ちが大きいのを知っていたから、葬儀に出席することを促さなかった。むしろ拒否が自然だと思った。


そして葬儀の時に私が後妻から無邪気に知らされたことが、彼女を引っ叩きたくなるくらいの怒りを持つものだった。

ひとつは、彼女は25年前に父を好きになり、5年後に「女として認めて貰った」こと。

ふたつめは、そういう関係になってすぐに離婚し再婚の予定だったが「○○君(弟)を妊娠して、堕ろせない週数になっていたからお流れになった」こと。


あなたは私を何だと思っているんだ、本妻の血が通っている娘なのをまるで無視して、あなたと父のラブストーリーを聞かせているだろう?


生家に帰り、喪服から私服に着替え、弟の部屋をノックした。なんか話があるのかい?といつもの飄々淡々といった具合の口調で聞かれ、思い切り泣きながら後妻に言われたことを話した。

弟は少し黙った後、そうか、だから僕はああされてきたのか、全て繋がった。と、とても納得がいったような口調で呟いた。

私は家族と一緒に来たので、夜居間で雑魚寝させて貰っていたが、夜中に不意にLINEが鳴った。そこには「もしよかったらこれをあちらの家の誰かに転送してくれないか?」とあった。そこには、静かな叫びが綴ってあった。

「文章という形で失礼します。改めまして、アレの血が通ってる人間です。私からはそちらに話すことなどないのですが何故かそちら側の幾人かは私と話したがります。私としては、まったく住む世界も見てるものも違うのにどうして私を引っ張り出そうとするのか理解に苦しみます。

私の立場を明言しておきますが私にとってアレは10年以上前から過去の人間ですし、アレが置き去った存在に寄り添ってこの10年以上を過ごして来ました。そんな人間が、アレの死を喪する側から話したいと言われていい感情を抱かない…と

そういった想像ができないほどあなたはバカなのでしょうか?

あなたは、父親のクチから母親をバカにする言葉を聞いたことはおありでしょうか?

あなたは、2階で寝ている時、1階で言い争いをする両親の怒声を聞いたことがおありでしょうか?

あなたは、私になにかあるとその教育を「母親に任せてる」として悩める母親に一切をぶん投げて取り合わない父親の姿を見たことがおありでしょうか?

あなたは、誕生日にと父親の連れ出され家に帰ると母親がお菓子やケーキを用意していつ帰るかの連絡もないままに自分の帰りを待っていた母親の寂しい姿を見たことがおありでしょうか?

無論、そんなことあなたは知らなくていいですし気に病む必要もありません。私はアレが残してった世界の住人で、あなたはその後にアレが作った世界の住人ですから

本来、お互いの世界が交わるべきではないのです。

ゆえに、アレの死を喪する気持ちで私と話したいと言うのであればそれは喧嘩を売ってるか、人をバカにしてるか、或いは感傷と言う名の無自覚の暴力と言ってよいでしょう。

あなたがアレとどうお付き合いしていたかも聞きたくありません。アレと幸せに過ごされていたのでしたらなおさら私や母と一緒にいた日々はなんだったのかと腹が立って来るのですから。

アレが幸せにならずみじめで孤独に死んでくれなかったことを心から残念に思います。

以上の言葉を踏まえ、それでも話したいことや伝えたいことがあるのでしたら耳を傾けたいと思いますが、安っぽくて薄っぺらい感傷だけで私と話したいと思っていたのであれば私はあなたと言う人間の浅慮を軽蔑します。

願わくばそのままお花畑の幸せの国にいてください。

私は私の世界、アレの失敗作の世界で生きますから。

それでは失礼します。」


そのまま後妻に転送した。

何分かして、彼女からひたすらに謝罪の言葉がしたためてある返信が来たが、もう遅い。

私たちは、あなたを許されざるものと認定したのだから。

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