おいおいどこから入ってきたんだよ

 お昼ご飯食べようと下の階に降りたら廊下の真ん中にオスのカマキリが佇んでてびっくり。今年はカマキリと縁ある年なのかな?
 カマキリってさ、素人目でもオスメス簡単に判断できるよね。明らかに体のサイズが違う。オスの方が黒っぽいこと多いのなんでだろ。

 と思ったが、調べたところによると、オオカマキリとコカマキリという種があって、もしかしたら私がずっとオスだと思ってた小さい個体は、コカマキリだった説が生じてきた。やばい。無知がやばい。

 戻って確かめてきたが、どう見てもこいつはオス。なんなら手に乗せて部屋に持ってきて尻凝視して調べたけど、産卵管はなかった。あとなかなか手から降りてくれなくて大変だった。かわいい。

 なんかこういうこと言ってると私が昆虫オタクだと思う人いるかもしんないけど、別に全然そんなことないからね。虫のことなんて全然好きじゃないんだからね! いやツンデレとかじゃなくて、普通に。

 あとこの個体は前見つけたメスと違って全然ぼんやりしてなくて、手を近づけるとめっちゃ大げさにびくんってなったし、何ならゆっくり逃げてたし。ただ掴まえて手に乗せたらなんか普通に楽し気に私の手の上闊歩してるから、まぁ元気だなぁって感じ。でもほんとにどこから入ってきたんだろう。あんな堂々と人間の家の廊下に突っ立ってるやついる? うふふ。

 窓開いてないか確かめたけどそんなことなかったし……まぁ誰かが家のドア何分か開けっ放しにしたときに入ってきたのかもしれない。それか洗濯もの干したり取り込んだりするときとか? んー意外と気づかないもんだしなぁ。でも気づかずに足元にいたとしてさ、カマキリとか足遅いから、間違って踏んじゃったらと考えるとぞっとする。でも靴履いてるときとかさ、絶対生きてたら気づかず虫踏んじゃってるよね。あー私たち罪深いわぁ。カマキリ君机の上に置いて放置してたからいつの間にかどっか行っちゃったし、多分私の部屋のどこかにいるんだろうけど。逃がしてあげればよかった。っていうか探そう。

 ちょっとショックなことが起きた。ちょうどティッシュ箱の上に乗ってたから、それ持ち上げて、二階のベランダから逃がそうと思って窓開けたんだけど、なかなかベランダの縁に乗ってくれなくて、やった乗ったと思ったら、ぼと!って落ちて、うわ、大丈夫か? って思ったら、羽が……羽がなんていうか、こう、ひしゃげちゃってた。打ちどころ悪かったんだろうね……なんか悪いことした気分。あと、そこ使ってないベランダだから、隅の方にでかい蜘蛛の巣出来てて、もしかしたらカマキリ君それにビビッて落ちちゃったのかもしれない。悲しいなぁ……

 ちょっと心配になってまた見に行ってみたんだけど、なんか……めっちゃ佇んでる。羽たためないまま、なんか……ショック受けた感じで佇んでる。これから俺どうやって生きればいいんだろう……って感じ。

 まぁ、仕方ないんだけどね。虫の世界は厳しいよ。君の兄弟たちもみんな理不尽に死んでいったんだ。君も運がなかった。もし私に見つからなくて、私の家族に見つかったら、もしかしたらトイレに流されていたかもしれない。私の家族は虫に容赦ないぞ。

 あー……なんか普通に悲しい気持ち。カマキリにまで同情してんのヤバくない? なんかつら。懺悔したい。ごめんよ……

 やっぱり人と虫は関わっちゃいけないんだな。悲劇しか起こらない……

 ベランダに私のせいで死ぬしかないカマキリ君が今も生きていることを考えると私はなんて罪深い存在なんだと普通に悩む。

 というか、あれだよね。希望がないって感じだよね。昔両足取れたバッタ見た時も思ったけど、自然界だと、そういう風になるとまず生き残れないから、すごく……すごく悲しいことだなぁと思って。あのカマキリ君は羽がぐちゃってなったけど、多分他の部位は無事だし……いやでも、落下のダメージでぼろぼろになってる可能性はある。内臓もヤバイことになってる可能性はある。でも私にできることは何もないよおお。

 こういうときどうすればいいんだろうね。気にしないでいるのは簡単なんだけど、なんだかなぁ……ふと窓開けてベランダの床見た時、カマキリの死体が落ちてたらさ「こいつ、私のせいで死んだんだよなぁ」って思うしかないよね。こういう時は、神仏に祈りたくなる。どうか安らかに、って思いたくなる。そうすると、罪の意識って和らぐからさ。カマキリ……

 なんか理不尽だよね。人間って。私平気で蚊とか叩くし、虫が他の人に殺されててもなんとも思わないのにさ、自分と少しでも仲良くした虫が自分のせいで死んでしまうと思うと、なんか無性に悲しくなる。冷酷でいることもできるんだけどさ、今私暇だからさ、情に流されてもいいなら、情に流されとこうかなぁ、みたいな。

 心温まる話にはならないなぁ。いや普通に胸糞悪いだけなんだよね。

 見てきたけど、まだずっと同じ姿で佇んでる。これ夜になってもずっと同じだったら私マジで、その姿記憶に刻んでおこう。いつか私も同じ目に遭うかもしれないし……うーん。それもなんか違うんだよなぁ。

 ただこういう、妙な気分の悪さというか、偶然と自然の残酷さみたいなものってさ、貴重だからさ、感じつくしておきたいし、ちゃんと記憶して、いつでも取り出せる感情にしたい。これも生きてないと感じられないものだし、繊細な人間だから感じられる胸糞悪さでもあると思うからさ、ちゃんと覚えておきたい。自分のために、ね。

 カマキリ君……

 なんか、殺してしまった時よりも、致命的なものを奪ったうえでまだ生きている姿を眺めている時の方が、胸が痛むよね。いっそのこと殺してしまった方が、私にとっては楽なんだろうなぁって思う。なんかあの状態で生かしたままにしておくこと自体が、どうにも残酷過ぎることであるように思えてならない。

 いやあのカマキリ君、まだ生き残れる可能性あるんだけどね。羽がつぶれただけなら、まだ歩けるし、元々産卵シーズン間近で、運よく餌さえ取れればメスと出会って本懐を遂げられるかもしれないし、そうでない場合にも、他のカマキリたちと同じようにいい感じに捕食されて生態系の一部として貢献できると思う。なんか、この目立たないベランダで干からびて死ぬのだけはなんだか悲しすぎる気がする。
 とりあえず地上に降ろしてあげよう。余計なことかもしんないけどさ、ずっとそばにいるってことが私にとってストレスだし、その方が色んな意味でチャンスある気がする。そもそもベランダに逃がそうとしたのが失敗だったんだよ。そんな高いところ得意な生き物でもないんだからさ。反省だなぁ……

 捕まえようとしたらすごい勢いで逃げ出してそのままベランダから飛び降りて行った。とどめさしてしまったかもしれない。あいつ飛べないぞ……でも意外と元気だったから……なんか、ほっとけばよかった。あんなに動くんだね。それもそうか……

 なんかいろいろと余計なお世話だった気がする。うん。めっちゃ元気に逃げて行った。三メートルちょっとくらいの高さなら、落ちても死にはしないよね。人間だって十メートル強の高さからコンクリートに激突して死なないんだから(実体験)、あんな軽い体で三メートルくらいの高さから柔らかい草むらに落ちるくらいなら、全然平気だよ。

 あと今調べて思い出したんだけど、体が小さいほど落下の際のダメージはどんどん下がるんだよね。確か質量だか体積だか速度だかの何乗かが衝撃時のエネルギーに比例するとかなんとか。全然覚えてないしよく分からんけど、軽ければ軽いほど相対的に体は丈夫、っていうのは確からしい。普通にあのカマキリ、平気だと思う。さっき羽がぶっ壊れちゃったのは、多分すごく当たり所悪かったんだと思う。

 もうちょっと詳しく調べてみると、空気抵抗がある場合、まず体が軽い方が、加速しなくなるのが速い。なんかこれさ、ガリレオの実験思い出すね。あれ、もともとまぁまぁ重いものと、それよりもっと重いもので比較したわけだけど、あれはあくまで比例していないことを証明しただけで、重さと落下速度の関係性がないことを証明したわけじゃない。というか事実、ものの落下する速度は常に一定じゃなくて、空気抵抗とか、密度とか、割といろんな数値が絡んでくるっぽい。ウィキで計算式見たけど……まぁでも終端速度の方程式ってそれほどごちゃごちゃしてるわけではなさそう。結構シンプルなんだなぁって思った。抗力係数とか意味不明だけど、他はまぁ、なんとなくわからんでもない気がする。あんまり興味ない。(いやでも多分、その抗力係数がキモなんだろうね。多分めっちゃちゃんと勉強しないと理解できなさそう)

 んで加速の話とは別に、落下時の衝撃エネルギーは、めっちゃシンプルで1/2×質量×速度^2だから、速度が落ちればエネルギーががくんと落ちるし、質量が減っても当然比例してエネルギー減る。カマキリちゃんは落ちても人間ほどのダメージは受けない。カマキリの体重ってだいたい1グラムから2グラムくらいらしいし、私の体重が……おっと? まぁ五十キロ(五万グラム)くらいだから?(サバ)(激サバ) いやまぁ、そんな痩せてないんだけど、計算分かりやすいからね? で、あのカマキリ、オスで軽い方だったと思うから1グラムだったとすると、五万分の一の体重だから、受ける衝撃はそのまんま五万分の一以下になるわけだね。で、衝撃に対する耐久力が、あのカマキリが私の五万分の一かっていうとそういうわけじゃなくて……なんか虫と比較するとさ、私がなんかゴリラみたいな印象になっちゃうのなんか嫌なんだけど。

 んまぁ……他にもカマキリの体の構造とかいろいろ考えることあるけど、なんかどうでもよくなってきた。私こういうこと考えるのあんまり好きじゃない。数字苦手ではないんだけどね、なんか面白くないんだよなぁ。
 正確な答えを出すっていうこと自体に楽しみを見いだせないんだよなぁ。達成感はあるんだろうけど、達成感ってすぐ消えちゃうじゃん。そもそも計算が好きじゃない。覚えるのも好きじゃない。照らし合わせて考えるのも好きじゃない。私、数学とかそっち系ダメだな。できないんじゃなくて、どうしようもないほど楽しくない。いや役に立つのは分かるけどね? めっちゃ役に立つのは分かるし、実際私も数字使って考えること多いけどさ、でもだっりぃわ。

 ともあれまぁ、多分あのカマキリは今もたくましく生きていると思う。なんか……冷静に考えるって大事だね。カマキリは私に色んな事を教えてくれました。はい。













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