真っ二つにされた告白


「ごめん」
 即答だった。迷いもなく、真っ二つに叩き割られた。そんなこと少しも想像していなかったから、私はぽかんと口を開いて、茫然としてしまった。
「えと……」
 気まずさに、彼は何か言葉を繋ごうしたが、何も言えない様子だった。
「わ、私こそ……ごめん」
 謝った後、私はくすっと笑ってしまった。実は、振られることは分かっていた。これは私が、自分の気持ちにケリをつけるためにやったことだったから、別にそんなにショックは大きくなった。大きくなかったけど、でもやっぱり悔しかったし、悲しかったし、辛かった。分かっていても現実の味は、体中に染み込んでいって……それでも、こんなはっきり断られるなんて思ってなくて、自分の考えの甘さというか、想像力の貧しさに、思わず笑ってしまったのだった。
 涙目で笑いながら、もう率直に聞いてしまおうと思った。
「でも、なんでダメなの?」
「……だって、今付き合ったって、きっといつか別れることになるだろうし」
「え?」
 いったい何を言っているんだろう。ただただ困惑するばかり。
「木崎さんのことは好きだけど、でもずっと好きでいられるわけじゃないし。僕たちはまだ高校生で、すぐに心変わりしてしまうから」
「えー……」
 なんだか、頭が痛くなってきた。私が好きになったこの人は……本当に何を言っているのだろう?
 確かに、私はこの人の真面目で嘘をつかないところが好きだった。気遣いが本当に上手で、純粋に人のために行動できる。彼はそんな人だった。
 でもさすがにこれは……
「松君、大人過ぎない?」
 彼は、照れ臭そうに笑った。
「背伸びしてるだけだよ」
「じゃあ、高校生らしく付き合ったっていいじゃん!」
「でも、分かっていないならともかく、分かっているのに人を傷つけるのはよくないことだよ」
「でも私今、振られて傷ついてる」
 松君は首を振った。
「一年付き合って、いきなり振られるよりはマシだよ」
 私の気持ちの何が分かる! と叫びかけたが、とどまった。彼の目も潤んでいて、傷ついているのは私だけじゃないと分かったからだ。それに……確かに、一年後、急に別の人が好きになったと言われて別れたら、私はきっと、今なんかよりもっとずっと、辛い思いをするだろうなと思った。確かに、彼は、正しいことを言っている。正しいことを言っているけれど……
「ねぇ。そんなに人って、正しくなくちゃいけないのかな?」
「人のことは分からないけど、僕は正しくありたい」
「そんなの生きづらいよ」
「僕は恵まれた環境で育ったから、それくらいの生きづらさは我慢するよ」
 私はもう、何も言い返せなかった。意外と頑固なんだな、なんていう意味のない感想だけが浮かぶばかりだった。
「どうしても、ダメ?」
「うん。ごめんね」

 もともと不釣り合いなんだと思った。私なんかじゃ、彼には見合わない。でも、彼に見合うような人なんて、そもそもいるのだろうか? どんな人も、彼の生真面目さの前じゃ、何も言えないのではないか?
 でもきっと彼は、大人になればもっと丸くなる。いや、今そんなに尖っているわけじゃないと思うけれど、でも妥協することは覚えると思う。
 でもそのとき、私より顔も頭も悪い女の子が彼を手に入れることを想像すると、喉の奥にイガイガと嫌なものを感じた。嫉妬。私、執着してる。
 彼のことは忘れようと思った。そのために、帰り道、夕焼けに向かって叫んだ。
「どうかお幸せに!」


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