マイペースなのに自分がない

海「私時々思うんだけどさー」
真子「うん」
海「私たちの会話って、みんなついてこれてんのかな?」
珠美「みんなって、読者様方のこと?」
友里「メタいな」
海「四人+りっちゃんのわけじゃん? 私たち。三人の場合だったら、会話がどんな感じかは想像しやすいじゃん?」
真子「四人までなら行けるくない?」
珠美「四人までならキャラ被らないし、みんな喋ってられるよね」
友里「んで、理知は発言の存在感強いから、ふだん喋ってなくても別に構わないっていうね」
海「でもその感覚って、私たちの感覚のわけじゃん?」
真子「そのうち慣れるだろ」
珠美「喋り方も微妙に違うしねー」
海「話変わるけど、喋り方、書き分けできてるのすごくない? 私たち」
真子「どうだろ」
珠美「できてるって思ってるの書いている人だけかもよ」
海「友里はどう思う? 考え込んでるけど」
友里「んー……口調自体は、それほど差はないと思うんだよ」
海「まぁ、アニメキャラみたいな大げさな口調ではないからな、うちら」
真子「内容があれだから、どっちかっていうと文語よりにはなってると思う」
友里「つーか最近の人間って文章読めないんじゃないの? 漫画とか、絵で人のイメージを捉えるから、言葉でイメージ捉えるの苦手になってんじゃなぇの? もしそうなら、うちらの発言で誰が喋ってるのか分からなくても文句言えねぇっていうか」
海「たとえば私たちの会話、誰が喋ってるのか隠して会話文だけにしたとして、どれくらいの人が完全回答できると思う?」
珠美「私はできると思う。あーでも、真子ちゃんと友里ちゃんが反対になるとかは、ありそう」
友里「役割は違うけどキャラ自体は似てるからな」
真子「私こいつと似てんの?」
友里「おっ? やんのか?」
海「そういうとこそういうとこ」
真子「まぁ実際、印象としては似てるんだろうなぁ」
友里「発言の内容が近い? んまぁ、真子の方が突っ込みよりだし、協調性もある方だと思う」
珠美「でも時々友里ちゃんが真子ちゃんの役割奪ってく時あるからな」
真子「逆も然りだろうなぁ」
友里「ずっともだな」
真子「敵じゃない?」
友里「お前、私のこと嫌いなん?」
真子「ユリチャンノコトナンてゼンゼンスキジャナインダカラネー」
珠美「真子ちゃんは照れ屋だからなぁ」
友里「まぁでも、それはお互い様か」
真子「正直、友里は私のこと信頼してくれてるから、ちょっときつい冗談とか、変な照れ隠ししても安心していられるってのはある。たまとかに同じような態度取ったら露骨に落ち込むから、定期的に言いたくない本音言わなくといけないからしんどい」
珠美「ががががーん」
海「私は?」
真子「海? 海はなぁ……そもそも海は私に興味ないじゃん」
海「えっ、そうかな?」
珠美「興味ってどういうことなんだろ」
真子「多分、海は私に嫌われててもなんとも思わないと思うし、好かれててもなんとも思わないと思う」
海「いやいやいや。私そこまで非人間的じゃないけど」
友里「でも大して気にはしないだろ? 真子とか私みたいなんは、人を嫌いになってもそいつに意地悪しようとか思わんし」
海「んまぁ、確かに……いやでも、多少は残念に思うよ。嫌われてたらね」
真子「好かれてたら?」
海「んー? 私なんで好かれてるんだろうって思う」
珠美「海ちゃん。私は海ちゃんのこと好きだよ」
海「知ってるよ~~好き好き~~」
珠美「きゃ~~」
真子「正直海のこと嫌いではないし、どちらかというと好きな方なんだけど、なんか釈然としないんだよなぁ」
友里「そんなもんちゃう? 人間関係なんて」
真子「でも私と友里は盟友じゃん?」
友里「盟友なのか。まぁそうだろうな」
真子「で、理知はママじゃん」
友里「せやな」
真子「たまはかわいい」
友里「かわいいな」
真子「海は?」
友里「変人」
真子「せやな」
海「私そんなに変かなぁ」
友里「私も変人だからアレだけど、海ってなんか、人との間になんか壁があんだよね。別にそれが悪いってわけじゃないんだけど、だから『友達』ではあるんだけど、それ以上の何かって聞かれても、いまいち出てこない。『変な友達』って感じ」
真子「そうそう。そんな感じ」
珠美「私は海ちゃん、変だけどかわいい友達だと思ってるよ」
海「うーん。つまり私は、親友が作れないタイプの人間ということですか」
友里「そうかもなぁ。たまも、海より真子や理知の方が親友には近いだろ?」
珠美「りっちゃんはママ。真子っちは……私にとって真子ちゃんは何?」
真子「私に聞かれても知らんわ」
珠美「親友?」
真子「微妙なラインだよな」
珠美「じゃあ今日から親友ね」
真子「お、おう」
海「じゃあ私、りっちゃんと親友になる」
 みな、いっせいに理知の方を向く。理知、考えている。
友里「おい海。悩まれてるぞ」
海「でも親友って何なんだろうな。私、そんなに自分の考えていること隠してるつもりはないんだけど」
真子「逆に全く隠さないからそうなんじゃないの? 特別感がないというか。裏表がなさすぎるせいで、みんなと仲良くなっちゃうから」
海「それはあるかもなぁ」
真子「たまとかは、甘える相手選ぶしな」
海「私長女だし、どうやって人に甘えればいいのかよく分からないんだよね」
理知「おいで」
海「わーい」
海、理知のひざの上に座る。
たま「いいなー」
理知「考えたんだけど、私は別に何人かに絞って親友にする必要はないと思うんだ」
友里「ほう」
理知「高校入ってからは友達に恵まれてさ、親友って呼べそうな人はここにいる四人だけじゃなくて、後輩にもひとりいるし、もっと年上の人もひとりいる。みんな大事だし、長く親しく付き合っていたい」
珠美「あ、まってりっちゃん。私、泣いちゃうから……」
友里「いやそれは大げさだろ」
海「あ、りっちゃん的には私ってもうすでに親友だった?」
理知「うん」
海「……私ってもしかして馬鹿だった?」
友里「お前は馬鹿だよ」
真子「今更気づいたのか、馬鹿め」
珠美「馬鹿ぁ!(泣」
海「じゃあ逆に、私のことを馬鹿呼ばわりする君たちはどうして私のことを親友だと思ってくれないのですか?」
友里「おうおう。いつになく踏み込んでるなぁ」
海「いや、ほんとに不思議に思ってさ」
真子「私は、海自身が私たちのことあんまり好きじゃないからだと思ってる」
珠美「えっ? 私は海ちゃんのこと親友だと思ってるよ?」
海「う? うん? うーん……」
友里「逆に聞くけど、海は私らから『お前は親友だ!』と言われても、ネタとして受け取るだろ?」
海「まぁそうだね」
友里「でも理知から『親友だ』って言われたら?」
海「そうだなぁって思う。私もりっちゃんは親友だって思う」
友里「うちらは海から軽く見られてるんだよ」
真子「別に嫌ってわけじゃないけどね。でもそれだと、友達どまりになるよな。必然的に」
珠美「なんか不安になってきた」
理知「相性の問題だと思うよ、私は。海は結局相手に合わせるタイプだし、友里や真子は自分と似たタイプや、自分を大切にしてくれる人を好きになるタイプだから、海とは友達としてはうまくやれても、親友ってなると難しいんじゃないかな」
友里「うーん。そうかな?」
真子「時間かければそのうち親しくなるんじゃない?」
理知「それはあると思う」
友里「まぁ海は海でそのまんまでいいんだよ」
真子「そうだな。別に不満があるってわけじゃないんだよ。ただ現状、そういう関係ってだけ」
珠美「人間関係って難しいなぁ」
海「私、もしかしてりっちゃんいなかったらぼっちになってた説ある?」
友里「それはねぇだろ。お前、誰とでも仲良くできるじゃん」
真子「でも、今みたいにネタ抜きでお互いのこと言うような関係にはなれなかったかもなぁ」
海「私、もうちょっと人からどう思われてるか気にした方がいいのかな?」
珠美「海ちゃん元々気にしてるくない?」
友里「かなり気にする方だな」
真子「自意識過剰気味」
海「えっ。私ってそうなの? りっちゃんもそう思う?」
理知「んー。過剰ってほどではないけど、自意識強い方だと思うよ。海は。私と同じくらいかな」
珠美「りっちゃんと同じくらいってなんかいいな」
友里「理知も意外と自意識強い方だよなぁ」
理知「かなり強いね。自分が人からどう思われるかっていうのも、自分にとって自分が何であるかっていうのも、すごく気にしてる」
真子「人からどう思われるかはあんま気にしてなくね?」
理知「気にしてるよ、私は」
友里「その割には、くそつまらんダジャレ言ったり、意味不明なところで笑い始めたりするよな」
理知「それが私だからね」
珠美「あーもうりっちゃんかわいい!」

 自分自身にうんざりすることには慣れている。多分私はきっと、嫉妬しているのだろう。

友里「海、落ち込んでんの? 珍しいな」
海「うーん。そうかも」
友里「さっき話してたこと気にしてるとか?」
海「それだけではないと思うけど、きっかけはそうだと思う」
友里「ちょっと言いすぎたか?」
海「いや別に。悪気があったわけじゃないのは分かってるし、これは単に私の人格の問題だと思う」
友里「私はそもそも問題ではないと思うんだがなぁ」
海「なんだかもやもやして納得できないんだよね」
友里「私も時々そういうことあるわ。まぁ多分、同じ感覚ではないんだろうけど」
海「そう珍しい感覚ではなさそうだけどね。単に嫉妬してるだけだったり」
友里「嫉妬? お前が? 理知に?」
海「んー。りっちゃんに嫉妬してるのかなぁって思うんだけど、でもりっちゃんの何に嫉妬しているのか分からない。容姿は、私自分の容姿大好きだから、別に嫉妬する必要ないし。学力だって、別にそう差があるわけでもないし。コミュ力は私の方が高いし、人格はりっちゃんの方がはるかに高いのは分かるけど、それは羨む必要のないことだし」
友里「じゃあ、関係性じゃない?」
海「関係性?」
友里「そう。理知ってさ、こうなんていうか、人と深い関係を結ぶのが得意なわけじゃん? でもお前には、あんまりそういう才能がない。今だって、私の方から歩み寄ってる。そうだろ?」
海「確かにそうかも。でもそれはりっちゃんもそうじゃない? あの子、絶対自分の悩みとか相談しようとしないじゃん」
友里「でも、誰かが落ち込んでたり悩んでたりしてるときは、必ず気づくし、少し離れた距離からちゃんと見てる。それで何かあったら、必ず寄って声をかける。私が今海に話しかけたのだって、理知が海の方ずっと見てたからだぜ」
海「気づかなかった」
友里「本人にだけは気づかれないように見るんだよあいつ。覗き魔だ」
海「ふふふ。でもさ、多分私はりっちゃんみたいにはなれないよ」
友里「それはみんなそうだよ。でもそれを言ったら、理知はお前みたいにはなれないし、私みたいにもなれない。あいつ、ふざけるのは苦手だからな。演技でもできない」
海「そうだね。でもやっぱり、羨ましいよ。私ってなんか、時々中途半端だなぁって思うんだ」
友里「でも私、お前が今以上に気が狂ったようなこと言いだしたらついて行けなくなるかもよ?」
海「私の一番尖ったところって狂気なの……」
友里「容姿のかわいらしさとかだけ褒められて嬉しい?」
海「ふだん褒めてくれない人が褒めてくれたら嬉しい」
友里「お前はかわいいよ。美的感性が死んでる私でさえ、そう思う」
海「友里はさ、優しいよね」
友里「知ってる」
海「知ってたの?」
友里「私は友達思いのいいやつだ。昔から」
海「親友じゃなくても大丈夫?」
友里「さっき親友とかそういう話したけど、私はそんなんあんまり意識してねぇぞ。そもそも近すぎても疲れるだろ」
海「友里はそういうタイプだよね」
友里「真子は、そういう距離の感覚が私と似てるんだよ。というかあいつは器用というか……たまと接するときはたまとの距離感だし、私と接するときは私の距離感に合わせてくれる……もしかしてお前……」
海「何?」
友里「もしかすると真子、お前の人との距離感が分からなかったから、あんな風に言ったのかもな。言われてみれば、私もお前の距離感って分からんわ。真子みたいに、相手に距離感を合わせるタイプじゃないのに、自分の距離感で話してる感じがしない。マイペースなのに……自分がない? そんなことある?」



 マイペースなのに自分がない。これは私たちの世代における、ひとつの特徴である気がする。
 どんなものでも器用に演じることができる。エンターテイナーにもなれるし、評論家にもなれる。馬鹿にもなれるし、人格者にもなれる。しかし、そのどれを演じていても、しっくりこない。あくまで自分の中で「演じている」という感覚が付きまとう。
 唯一そういう感覚にならずいられる自分は「普通」ですらない「何物でもない空虚な自分」。
 言葉もどこか上滑り。人間関係は、相手から踏み込んでくれないと相手のことも自分のことも分かるようにならない。自分から、相手に向かって踏み込んでいくことができないし、そのやり方も分からない。
 だから友人関係も、恋愛関係も、不満はないはずなのに、どこか薄っぺらい印象。「たまたまその人が自分の近くにいただけ」という感覚。「繋がっている」という感覚がない。だから、もっと色々な繋がりを探すのに、どうやっても薄っぺらな繋がりしか見いだせず、しまいにはその薄っぺらな繋がりの「数」に価値を見出そうとする。
 でも心のどこかで「こんなのただの数字じゃないか」と気づいている。相手にとっても、自分は「たくさんいる面白い人たちのうちのひとり」でしかないことを自覚している。

 あぁ。厄介なことに、この時代の「出来のいい人」は、みんなそろいもそろってそういう傾向を持っているのだ。しかも彼らは、半分そのくだらなさを自覚して、どこかシニカルになっている。それくらいに、この時代の道化師たちは知性的なのだ。半、知性的なのだ。





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