文学少女の恋【ショートショート】

 なんか船見君で妄想してたら、船見君のことが大好きな部活の後輩低身長文学少女ちゃんを応援したくなってきちゃった。ので、書きます。自給自足だね。


――


 小学、中学の九年間ずっと続けられた習い事は書道だけだった。ピアノや新体操もやってみたことはあるけれど、同じ動きをずっと繰り返すというのは私には向いていなかったのだと思う。それに、私は身長があまり伸びなくて、それなのに胸ばっかり大きくなるから、体が動かしづらかったのもあると思う。指も短くて、短いのにちょっと太くて不格好で、コンプレックスだった。
 でも書道は、そんなの関係なかった。書いた字がすべてで、私は綺麗に書くよりも大胆に書くのが好きだった。それに、いつも大胆に書いているからこそ、たまーに気が向いて普通に綺麗に書いたとき、友達に「綺麗にも書けるんだね」と褒められるのが、嬉しかった。

 高校の部活は決まっていた。書道部。
 高校から始めた人も結構いて、私は一年生ながらかなりうまい方だった。

 二年生の船見先輩とは、はじめて会った時から意気投合した。まず船見先輩の書く字は、私の字に少し似ていた。書き方も似ていた。とりあえず何も考えずにたくさん書いて、その中で自分の書きたい字の完成図を頭の中で思い浮かべていく。ある瞬間にそれが完全にピタリとはまって、そのとき初めて、じっと集中して紙と向き合う。誰に教えてもらったわけではないけれど、それが一番書きやすかったから、ずっとそのやり方をしていた。今まで私と同じ書き方をしている人とは出会ったことがなかったからこそ、私と同じように自分でそのやり方に行き着いた船見先輩と、何か運命的なものを感じたのだ。

 私は船見先輩のことをもっと知りたいと思って、積極的に話しかけた。私は別に高校デビューしようなんて考えてなかったし、異性とお付き合いすることも、もっと先のことだと思っていて、別に下心は少しもなかった。
 それでもやっぱり、そういうのに憧れる子たちと友達だったのもあったし、周りもどんどん大人びていくから、私も少しは意識する。この人だ、と思える人がそばにいること自体が、幸運だと思ったし、時間をかけてしっかり私なりにその幸運を掴み取って離さないようにしようとも思っていた。

 将来のことを妄想することも多かった。船見先輩は、知れば知るほど面白くて素敵な人だと思った。がっかりすることはほとんどなかった。もちろん少しはそういうところもあるけれど、でもそれくらいで、船見先輩のいいところが帳消しになったりはしない。

 それに、匂いも好きだった。部活の友達は船見先輩の匂いが苦手だと言っていたけど、私は好きだった。それはきっと、遺伝子的な相性なんじゃないかと思って、それを意識しても、私は嬉しい気持ちになった。船見先輩も、私と多少距離が近くても、あまり嫌がっていないような印象だった。
 私たちはきっと相性がいい。そう思うと、この恋路はきっとうまくいくのだと信じることができそうだった。

 文化祭が終わって、二学期に入った。夏休みの間、勇気を出して、三回も二人で出かけることができた。船見先輩はマイペースでありながら、ちゃんと気遣いのできる人で、先輩自身がそのとき行きたかったところを中心に、私が興味ありそうなところもリサーチして、連れて行ってくれた。大切にされているという感じがした。まだ付き合ってはいないけど……その三回のデートは、私たちの心の距離をぐっと縮めてくれたと思う。
 あ、ネコカフェに連れて行ってもらった時、先輩ネコまみれになってて、予想通り、動物にすごく好かれる人なんだなぁと思った。あと本人もすごく動物が好きで、普段学校ではめったに見せない気の抜けた笑みを浮かべてた。ちょっと動物に嫉妬しちゃったけど、きっといつか私にも……なんてね。

 船見先輩は、物静かな性格だけど、すごく話の引き出しの多い人だった。というか私の考えでは、話の引き出しが多くて余裕があるからこそ、たくさん喋る必要がないというか、相手の話にピンポイントでつながる話ができるから、会話が止まるのを恐れてしゃべり続けたりしないのかなぁって思ってる。男の子って、どうしても喋りすぎだったり黙りすぎだったりすることが多いけど、船見先輩はその点すごく話しやすいというか、多分、私に合わせてくれてるんだなぁっていう感じが、すごく素敵に思えた。大人びていたし、私以外の人に対しても、それぞれ仲がよさそうにしゃべっているところを見ると、やっぱり人柄なんだと思えた。頭が良くて、自分っていうものをしっかり持っていて、傲慢じゃない自信もある。
 私なんかには見合わない、なんて思わず、船見さんに見合う自分になりたいと思ってる。実際、恋というのはすごいもので、去年の写真と今の写真を比べて、明らかに肌は綺麗になったし、体重も減ったし、勉強の調子もいいし、いいこと尽くし。努力が全然苦じゃなくて、毎日が楽しい。部活のある日はもちろんのこと、ない日だって、明日は船見先輩と何の話をしようと考えているだけで、十二分にその日を楽しめる。

 今はまだ勇気がなくて告白とかできないし、そもそも多分まだ船見先輩は私にそれほど惹かれてないから、告白してもダメだと思う。前に先輩にそれとなく、女子から告白されたことはあるのか聞いてみたことがあって、そのときに「たとえ自分が魅了的だと思った人でも、その人との関係が良好なまま長く続けられないようだったら、断ることにしている」という話を聞いたから、多分そういうことなんだと思う。ゆっくり、距離を縮めていきたいと思う。先輩に必要とされる私でいたいと思う。
 まだどんなタイプの子が好みかは教えてもらってないし、他の人たちに聞いてもそういう話は本人はあまりしないらしいから分からないけど、でもずっとそばで見ていれば、いつか分かるようにもなると思う。

 先輩が三年生になったら、受験で忙しくなってしまうかもしれない。できればそれまでに何とか今以上に深い関係になりたいと思うけど、でも先輩はそういう焦りみたいなものに敏感だし、自分のペースで物事を進めたい人だから、私は虎視眈々とチャンスをうかがっているくらいでいいんだろうと思う。そんなことしてるうちに高校生活が終わったら目も当てられないけど、でも自滅するのは論外! 慎重、かつ大胆に行こう!

 部室に入ってきた先輩に、私は真っ先に手を振って挨拶をする。
「船見先輩!」
「今日も元気だなぁ、宮白さん」
「いい天気ですから。それよりも先輩、今日ちょっと体育の授業のときに面白いことがあって……」
「その切り出し方ハードル高いけど大丈夫?」
「先輩はつまらなくても笑ってくれる優しい人なので大丈夫です。それで、バレーボールの授業だったんですけど……」
 先輩は私の話に細かくリアクションしつつ、適度にツッコミながら聞いてくれる。私たちの世界は二人で完成されている。
 会話が止まって、微笑んでいる船見先輩を見ると、あぁやっぱりこの人のことが好きだな、と思った。私は言葉にできず、目を逸らし、そろそろ字を書かないと、と思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?