この苦しみは私の取り分だ

「まぁ、なんていうか、ちょっとありきたりだよね」
「そうですねぇ。まぁ書き始めのころなんて、天才でもない限りそんなもんだと思いますけど」
「多分自分の周りにはこういうの書ける人あんまりいないから、自分は特別だって思い込んじゃいやすいのかもね。広い世界を知らないというか」
「大海を知らずってやつですね」
「そうそう。まぁでも、こういう子は知らないままの方が幸せかもね。本当のこと言いづらいよ」
「でもずっと誤魔化し続けるのもよくないんじゃないですか?」
「そうなんだよねぇ。嫌な仕事だなぁ。どうせ『この人は何も分かってない』とかって思われるんだろうなぁ。いや、こっちは分かったうえで否定してんだけど」
「あはは……若い人の相手をするのは大変そうですね」
「大変なんてもんじゃないよ。まぁ自分にもそういう時期はあったから、仕方ないとは思うけどね」
「ですね」

 現実のにおいを消し去ってくれ。耐え難い。

 風のように生きていたい。ただ、気ままに過ぎ去って、そのまま消えていく存在でありたい。

 こんなつまらない自我なんて、捨ててしまいたい。

 周りからどう思われるかとか、忘れてしまいたい。

 私は私でありたい。ただ、私は私だけでありたい。

 自分の人生を「これでよし」と言うことがどれだけ難しいか。
 何も考えないで生きていた方が、ずっと楽だ。ずっと楽なのに、私はそういう風に生きるのを嫌がっている。わがままに、ただただわがままに。それが私の意志なのだ。

 考え続けていられるのならば、私は何もできずに死んでもいい。苦しみ続けていられるのならば、私はどれだけ蔑まれていてもいい。

 無理しているんじゃないんだよ。これが私なんだよ。

 私はひとりぼっちだ。ひとりぼっちを貫くよ。最後まで、ひとりきりで生き抜くよ。

 誰も助けてくれなかったし、誰にも助けてほしくなかった。私の心は、ずっと、ずっと、たったひとりで動いていた。私の心臓は、私の体だけで動いていた。
 誰かに支えてもらえなきゃ生きていけないような人間ではありたくない。ひとりで立っていたい。

 求めた分だけ、手に入らなかったことを悔しく思う。それでも私は、求めるのをやめたくない。苦しいのが分かっていても、私は求めていたい。求める力を失いたくない。

 何も望まない人生なんて、つまらなくて吐き気がする。


 欲しいと思って、手が届かないことを知って、諦めて、嘆いて、それを手に入れている人を見て、目を背けて、首を振って、私には関係がないと言い聞かせて、苦しんで、悩んで……それが人生の、あるべき姿なのだ。

 私は私の取り分を放棄しない。この苦しみは、私の取り分だ。

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