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タルマーリーで1ヶ月間インターンして感じたもの

 みなさんこんにちは。
 いきなりですが『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』、『菌の声を聴け』という本をご存知でしょうか?これらの本をもの凄く簡単に要約すると、「現代社会に抗うパン屋の物語」ということになります。

 今回このnoteでは、タルマーリーが気になる方、インターンに応募しようか悩んでいる方、そのような方々に向けて、現代社会に抗うパン屋ことタルマーリーさんに私が1ヶ月間インターンに行ったお話をしたいと思います。

インターンへの応募まで

 私はたまたま書店で『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』に出会い、タイトルに惹かれて購入し、読みました。本の流れとしては、オーナーの渡邉格さんがパン修業を始めるものの、過酷な労働環境や食品偽造まがいの現場に遭遇し、マルクスの資本論などを紐解きながら、従来のパン屋とは異なるパン屋を創っていく・・・といったものになっています。ではどのようなパンづくりを目指されているのか、特に私が印象に残った文をご紹介します。

できるだけ地場の素材を使い、環境にも人間にも地域にも意味のある素材を選ぶ。イーストも添加物も使わずに、手間暇かけてイチから天然酵母をおこして丁寧にパンをつくる。真っ当な”食”に正当な価格をつけて、それを求めている人にちゃんと届ける。つくり手が熟練の技をもって尊敬されるようになる。そのためにもつくり手がきちんと休み、人間らしく暮らせるようにする・・・。(講談社,『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』,112P)
「パンが売れれば売れるほど、地域の経済と環境が良くなる」
タルマーリーは、これを目標に経営してきた。(ミシマ社,『菌の声を聴け』,92P)

 大量生産・大量消費、労働の単純化や搾取(実行と構想の分離)、環境汚染・公害、価値観の画一化・・・。現代の大企業(や社会)が犯している罪とは真逆のあり方が、このパン屋にはある!この点に非常に魅力を感じインターネットで調べた所、スタッフ/インターン募集の文字を発見。そこで私は実際にお店に赴き、履歴書とパンを買いに行きました。もちろん、インターンへの応募の方法は、メールまたは郵送でも可能です。履歴書(写真付)と志望動機を書いたものを送れば応募は完了となります。

インターン一日の流れ

 履歴書をお渡しした後日、インターンの希望日を尋ねる電話が掛かってきます。そこで日程が折り合えば、晴れてインターン生となります。

 さて、私は電車で最寄り駅の那岐駅まで行きました。駅まではスタッフの方が車で迎えに来て下さり、早速1ヶ月間過ごすこととなるシェアハウスへと案内されます。1人1部屋(5~6畳)が与えられ、また各部屋にストーブもあったので日々快適に過ごすことが出来ました(テレビやラジオはありませんが、wi-fi環境はあります)。キッチンは共有なので、他のインターン生などと分担しながら夕飯を作って一緒に食べたりします。コロナ禍で人との繋がりが希薄化するなか、改めて美味しいご飯を食べながらみんなでおしゃべりすることの幸せを感じました。

 インターン仕事はパン製造補助、発送準備、カフェ補助の3つとなっており、ローテーションで分担していきます。
 パンの製造補助は基本的に「ばんじゅう」と呼ばれるパンを入れる容器を洗う作業がメインになります。パンのいい匂いに包まれながら職人の空気感を感じることが出来ます。パン製造補助は6時から作業開始となりますので少し朝が早いですが、すぐになれました。
 発送準備とカフェの補助は基本的に8時作業開始です(9時半開始の日もあります)。作業内容は、オンラインで注文していただいたパンを一つ一つ丁寧に包装し、段ボール箱に詰めていくことです。単純作業が続きますが、先輩の動作などを見ながら効率のいい動き方などを意識してやっていくと、あっという間に終わります。また、パンを包装する過程でさまざまなパンを見ることが出来るので、自然とパンの種類や特徴が頭に入るようになります。

 パンの製造補助の人は11時にお昼休憩(30分)があり、14時に退勤となります。発送準備とカフェ補助の場合、12時前後にお昼休憩(30分)があり、8時出勤の場合は16時、9時30分出勤の場合は17時30分退勤となります。
 火曜日と水曜日は休みなので、この機会を利用して鳥取や岡山を観光してリフレッシュするインターン生も多かったです。もちろん、オススメのお店や観光地などはスタッフの方々から沢山教えていただけます。私は鳥取民藝美術館に行きたかったのですが、あいにく水曜日はお休みでした(T_T)

実際に働いて感じたこと

 インターン期間中、本を読むだけでは分からないことが沢山あり、実際に働いてみて感じること、学んだことは多くありました。この点は、きっと多くのタルマーリーインターン経験生が同意してくれると思います。では具体的にどのようなことを感じたのか、私の感じたことをご紹介します。

(1)食へのこだわり
 まずなんといっても、食へのこだわりです。タルマーリーではカフェもやっているのですが、それらに使われる食材一つ一つの選択に明確な意味・意志があるんだということを感じました。例えば、タルマーリーで扱っている野菜やナッツ、イチジクなどは基本的に自然栽培や有機栽培など、肥料・農薬が少ないものを選ばれています。また、極力地域や国産の選ばれており、お金を地域に還元しよう、という気持ちが伝わりました。オリーブオイルや醤油などの調味料も、遺伝子組み換えではない大豆を使用したものが原料となっているものにされているなど、とにかく徹底されています。
 身体に悪いモノ、不自然なモノは極力さける、地域に還元する、理念と行動が結びついていることが分かりました。また、注文が入ってからピザ生地を伸ばして焼いたり、料理を作り始められるので、混雑時には遅いなぁと感じたりするかもしれませんが、そこにはその分、手間暇が掛かっているのです。本物の食材をふんだんに使い、手間暇をかけている分、値段は高くなっているのです。このような背景を知り、私はタルマーリーの値段に納得できました。

 また、スタッフの方が、ウチで使用している小麦はあまりパン作りにはむいていないけど、それをどうカバーするかが職人の仕事だよ、とおっしゃられていることも印象に残り思いました。確かに、地域の食材に拘りすぎると料理に向かないこともあると思います。しかし、その制約をどう工夫してカバーするのか、これは日本人だけでなく多くの人々が積み上げてきたものではないでしょうか。しかし、インフラ網が整備された現在、それぞれの製法に向いた安い食材を世界各地から調達できるようになりました。そしてその結果、労働者は自分の地域ある食材をいかに活かすか工夫を重ねる存在から、別の土地から集められた材料を、機械にセットしてボタンを押すだけの存在に成り下がったのかもしれません・・・。

 また、タルマーリーでは食品ロスは無く、パンはパンレスキューの方々のお力があって売り切れるようなっています。カフェのあまりの食材などは我々インターン生のまかないへと変化します。そして、数少ない食べ残しなどはコンポストに行き、新たな作物を育てるための肥料へと変化します。
 私は以前食堂と某回転寿司屋でアルバイトをした経験があり、そこでは数多くの、まだ食べられる食材たちを捨ててきました。ここではそのような経験が一切なく、非常に新鮮な気持ちでした。もちろん、食材を使い切るためにロスを見越した仕入れなどは行われていません。また、自然栽培の農家さんはまだ少なく、収量が少ないということもあります。そのため、想定よりお客さんが多く来たりすると品切れになる料理が出てきたりします。しかし、それでも理解を示して、他の料理を注文していただけるお客さんが多くいること、これもタルマーリーの良さであると思いました。

(2)顧客の創造
 いきなり話は変わりますが、ドラッカーは「企業の目的とは顧客の創造である」と述べています。消費者ではありません。いままでこの言葉にピンときていなかったのですが、タルマーリーに来てこの言葉の意味が理解できました。何故なら、タルマーリーのお客さんは、"消費者"ではなく"顧客"だったからです。
 私は、"消費者"とは経済合理性だけで行動する人だと思います。例えば、A店はたまごが安いからたまごを買い、B店はお肉が安くて量が多いからB店ではお肉だけ買う。そして毎週1の付く日は特売をするからE店で買い物をする。ここでのA店、B店、E点は価格だけしかお客さんに訴求できておらず、その結果、商品がいかに安いか、ということだけで選ばれるお店にしかなっていません。きっと仕入れが止まったり、値上げをすればこのお店を利用する消費者は離れていくでしょう。
 ですが、"顧客"はそのお店のあり方に理解・共感し、応援してくれる人ではないかと思いました。タルマーリーのパンは決して安くありません。カフェの料理やパンが売り切れることも珍しくありません。場所も山の中にあり、アクセスはお世辞にも良好とは言えません。しかし、それでもタルマーリーのこだわりや美味しさを理解したり、経営のあり方に共感して、パンレスキューになったり遠路はるばるお越しいただけるお客さんが多くいます。このようにタルマーリーを理解し支えて下さる方々は、まさに顧客だと思います。
 地方からも、今後沢山の魅力的なお店が誕生していくと思います。そのような魅力的なお店を存続させていく上で欠かすこが出来ないものの一つはは、顧客ではないでしょうか。市場の論理やトレンドばかりを追うと”消費者”しか来店しなくなります。そうではなく、そのお店のあり方に理解・共感し、応援してくれる人=顧客を増やしていかなければなりません。そしてどうすれば顧客を創造出来るのか、このヒントはタルマーリーにありました。

(3)私に出来ることは何か
 以上のようなことを感じながら、私はずっと一つのモヤモヤを持って生活していました。それは、「社会をより良いものにするために私はこれから何をしていけばいいのか」ということです。いまの社会のあり方には疑問を感じつつも、別にグレタさんのような行動力もなく、日々頭の中で批判し不満を口にすること、そして選挙に投票に行くことぐらいしかできていませんでした。かといって、いきなりタルマーリーのようなお店をやる勇気もお金も技術もありません。きっと、これは社会に対して問題意識を持っている多くの人が持っている疑問ではないでしょうか。
 ですがここでの生活を通して、日々実践できるヒントを一つ得ることができました。それは「いいものを積極的に買う」ということです。いいものとは何か、それは①身体に良くて、②自然環境への負荷も少なく、③地域や国産の材料を使用しており、④職人の技が宿っているもの、以上です。身体にいいものを選ぶことは当然ですが、地球温暖化が叫ばれる現在、自然環境への負荷は少ない商品を選ぶことが望ましいですし、地域をより豊かにするためにも極力地産の商品を買い応援すべきなのでしょう。そして既に見たように優れた材料を用いて優れた製品にするためには職人の技が欠かせません。また、労働力を売り渡し労働者があたかもロボットのように、単純化・機械化され、やり甲斐もない労働しかできなくなることを防ぐためにも、職人とその文化を守っていかなければなりません。
 もちろん全てを満たした商品に出会うことは少ないでしょうし、経済上、常日頃そういう商品を買うことを出来ない人もいます。私もその一人です。しかし、100か0かで考えるのではなく、出来る範囲だけでもやり始めることが大事だと思います。
 私もインターンから帰ってきた後、早速地域の農産物販売所に買い物に行き、地域の農家さんが育ててくれた野菜と、地元の大豆(遺伝子組み換えではない)を利用したお味噌を買いました。これまでただ値札しか見ていなかった私の行動は、商品ラベルや産地を見るようになったのです。全体から見ると微少な変化かもしれません。ですが、資本主義やお金を全否定するのではなく、既存のシステムを活用しながら、お金を上手く活用して、徐々にシステムをより良いものにしていくことが一番混乱が少なく、また現実的なものではないでしょうか。

さいごに

 タルマーリーでは親切なスタッフの方々のおかげで、充実した日々を過ごすことが出来ました。また、渡邉ご夫妻、スタッフの方々、そして同時にインターンを過ごしたインターン生との会話などを通し、様々な刺激を得ることが出来ました。ありがとうございました。
 このnoteをきっかけに、私のようにタルマーリーのインターンに応募し、自分の身体で学びを多く感じることが出来る人が1人でも増えればいいなと思います。
 長くなりましたが最後までご覧いただきありがとうございました。

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