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感想 流浪の月  凪良ゆう  事実なんてどこにもない。それぞれの解釈があるだけだ!!

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ネタバレあり。

更紗は子供だ。
両親は、人前でキスをする。だから、みんなから変な家族と思われていた。
とても自由で幸せだった。
しかし、父の死で家庭が崩壊し叔母に引き取られる。
そこの息子にセクハラをされるようになった。
息もできないような苦しみの中公園にいる。
ロリコン というあだ名の男 文 の横で赤毛のアンを読んでいる時だけが至福の時間だった。
「うちに来る?」
ロリコンの文は、更紗を救ってくれた。二人の楽しい共同生活の始まりだ。
しかし、それは周囲には幼児誘拐として見えられてしまう。
彼は逮捕され彼女も施設に・・・。

物語を大きく分けると、前半の誘拐のパートと、現代のパートにわかれます。
文は、更紗に対して性的なことはしていない。
ここが大切です。

大人になった更紗はファミレスに勤務していて恋人と同棲をしている。この男、暴力的だ。
勝手に結婚をすると決めたり、彼女を祖母に会わしたいと思っている。

「ちゃんと説明したら、うちの親は許してくれるから・・・」

更紗は思う。私には、何か彼らに許してもらうことがあるのだろうか?。
まるで、彼女が犯罪者みたいなのである。

事実なんて、どこにもない。ただ、それぞれの解釈があるだけだ。

と更紗は言う。
そんな時、文と再会する。彼は人気のカフェのオーナーをしていた。
彼女は店の常連になる。それを恋人が知り嫉妬する。
いきなり、彼氏がレイプしようとする。したくないのに、しようとする。ここで吐いた彼女のセリフがいい。

これは私の身体だ。私には拒む権利がある。

今まで、彼に頼りっぱなしで、彼の言いなりだった彼女のはじめての意思表示だった。
もちろん、文との再会が影響しているのは言うまでもない。

ドメスティックバイオレンスの彼氏のことを友人がこう評している。これも印象深い。

あいつらにはスイッチがあって、それを押されると止まらないのよ!

この彼氏にボコボコにされて、彼女は彼と別れることにした。
引っ越した先が、文の隣の部屋だった。

当然、彼氏はブチギレる。文の過去をネットに投稿したり、マンションにも押しかけて髪の毛を掴み、壁に頭をガツンと・・・。

ここに、友人の娘という8歳の子を預かるというイベントが発生する。
この子を二人でしばらくの間、面倒を見るのだが、あの暴力彼氏が嫉妬し週刊誌に二人の関係を暴露する。

更紗はストックホルム症候群とみなされ、今も加害者に洗脳されていて
幼女を彼に貢物として捧げているという風に報道され
警察が介入、仕事は解雇、さんざんな目にあわされる。

ここで更紗が吐いた言葉が気になる。

事実と真実の間には、月と地球ほどの隔たりがある。その距離を言葉で埋められるとは思えない。

何を言っても自分たちのことは理解してくれないというのだ。

文は、幼児性愛者ではない。
本当は、何かの病気だった。
彼は自らの身体に対するコンプレックスを誤魔化すために幼児性愛者という風な態度を取ったに過ぎないと最後にわかる。

文を最後まで理解したのは、更紗と文と更紗が一時期面倒を見ていた少女リカだけだった。
この世界に、誰か一人でも自分を理解してくれたというのなら、それでも文は生きていけるのである。

物語全体を通して感じたのは世間の不寛容さだ。
自分の偏見だけで判断し攻撃する。その浅ましさに吐き気がする。

文が世の中に絶望し、理解者として少女だった更紗を選んだのは
彼女の目は汚れてなかったからではなかろうか?
純粋で真っ直ぐな視線で文を見てくれていたから、そんな彼女を求めていたのではないだろうか
文のカフェの名は「キャリコ」という、これは日本語に訳すると更紗という意味だ。
文の話しのパートで、逮捕されてから刑期を終えて出所し、彼女を探して彼女の住む街でカフェを開くまでの過程が述べられているのだが、ここが切ない。

彼の気持ちも彼女の気持ちも 愛 ではないと思う。
でも、いなきゃ困る存在なのだ。

ただ、一緒にいたいだけの関係とでも言うのがいいのだろうか。
二人の邪魔をする奴らに僕は腹がたった。
「頑張れ」と二人を応援したくなる。そんな物語だ。

事実なんてどこにもない。それぞれの解釈があるだけだ!!

この言葉が読後、ずっと脳裏に渦巻いている。


2022 5 22
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