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感想 くるまの娘 宇佐見りん 祖母が死んだ、家族で車で里帰り。バラバラの家族の不協和音。

家族構成は、両親と兄、弟、自分の5人。
どうも父は別居しているようだ。両親は不仲で、母親はこころに病を抱えていて、父は暴力的な暴君。
兄はそんな家族に嫌気を感じて結婚をきっかけに絶縁状態。
弟は祖父母に引き取られている。
今、家で暮らしているのは私高校生と母だ。

かなり複雑な家庭で悲惨な感じがする。
祖母が死ぬ。家族が集まり、みんなで里帰り。何故か車中で一泊する。それが、この家族の流儀なのだ。

前半に主人公の心情を適切に現した美文があるので紹介したい。

毎日が水風船をアスファルトの上で引きずっているように苦しく、ささいなことで傷ついて破裂する。


爆発寸前のやばい精神状態だというのが、このことからもわかる。この家族、かなり変だ。母親は自分の病気のせいで、こんなことになったと思い、父親はすべて母親のせいだと思っている。たぶん、兄と弟は両親のせいと思っているし、弟は父をより一層激しく嫌悪していて、それは兄にも言えることだ。

互いに自立し尊重しあっている風に外面的には見えるのだが、とても息苦しい。それがシーンの描写や各人のセリフの中から、まるでガス漏れか何かみたいに腐臭がばらまかれていて、とにかく厳しい家族であり、葬儀に集まった親戚からも、あんな家から、あんたも逃げなさいみたいなことを言われる。

この家族の状況を作者は絶妙な言葉で表現している。

背もたれを蹴ることも、また、暴力だということだった。


家族は皆、母親が病気だからこうなっていると思っている。
もちろん、病気の人間を責め立てるのは人倫にもとる行為である。
て゛も、やはり被害は出るもので、それはガス抜きみたいにときどき言葉や態度で現れる。

それが背もたれを蹴る行為と似ている。
それは何かに対する抗議とも言える。しかし、それは病気の母からすれば暴力。責め苦なのだ。だから、旅行中に「しんじゅうしよう」なんて言い出すのだ。

娘は自立し、兄や弟のように家を出るように親戚に言われた。
しかし、それはできない。
その葛藤がこの作品にはよく描かれていた。



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