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優しい嘘  金呂玲

少女を自殺に追いやったのは何だったのか?。繊細な文章で抉る彼女の心の地図は悲しすぎた。

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ただ、生きてさえいてくれたらいい
たぶん、子供を失くした親はそう思うと思う
生きていれば何か良いこともある。でも、追いつめられた人は、そうは思えない
だから自ら命を断つ

これは中学生の少女の死の真相を見つめる物語である
そこから見えてきたのは、韓国社会のひずみであったり、人間の愚かさ野蛮さであった
彼女は、優しいがゆえに殺された
殺したのは、彼女を取り巻く人間たちすべてだ

ファヨンという親友は、露骨ないじめをしていた
父親が事故死した彼女に、嘘の噂さを流したり
誕生会の招待時間を嘘ついて食べ物がなくなったところに彼女はやってきたり
支配をしていたのだと思う
彼女の方もファヨンしか友達がいないので、嫌だと思っても避けられない
周囲の人間は見て見ぬふり、どころがミラという友人は悪意を投げかけてくる

ミラが彼女に当たりが強かったのは、ミラのダメな父親が彼女の母親の恋人だったからである
その関係性は、ミラの母親がいた時からだった
その事実を、ミラは彼女に辛辣な言葉で投げかけるのだった

母親は、優秀だったが女だという理由で進学するなと言われていた
それでも自分で働いて勉強し大学までいった
芸術家の父親と出会うが、彼はどうやら売れてなかったようだ
事故で死んだことになっているが違うような気もする
母親はスーパーで働いている。でも、貧乏だ。極貧である。自己実現に失敗した。自暴自棄だ。
自分をちゃんと見てくれない母親に、彼女は不満を抱いていたような気がする
大切なことを話せる相手ではなかった

彼女には姉がいたが、マイペースな人で、あまり妹には興味がなかった
大人しい妹に対して活発な姉
彼女にとって、この姉は近くて一番遠い存在だったのかもしれない

彼女は、5つの遺言を残していた
たぶん、自分の死の原因になった人たちに対してなのだ
そこには「許し」の言葉があった
たぶん、これが表題の優しい嘘の意味だと思う
彼女は、本音で言えば、その人たちを許したくはなかったと思う
でも、優しいから死んだ後、苦しむかもしれないと思うから、それを残した

母親、姉、ファヨン、ミラ・・・
最後に、死ぬという決断をした愚かな自分に対して
許しを与える必要があったんだ

気がつくと、思春期の少女の視線になっていた。色んなところに感情は転移していくのだが、その度に死んだ少女を引き寄せていくような錯覚に陥る
上手い構成だ、文章だと思う。親世代の因果が、その子に影響して、こんなことになったんだ
ファヨンの母を見ていれば、彼女がああなった理由がわかるし
ミラの父親を見ていれば、ミラのあれも理解できる
彼女の母親は両親の教育と社会から歪められ挫折し絶望し、それは姉にも影響している
学校は家畜の養成場のように無機質で自分本位。教師は自己満足で、生徒全員が加害者。なのに、何の自覚もないし罪悪感も抱いていない。完全スルーだ。
長髪の隣人は何か変態的な臭いがして、彼女の周囲に漂う蝿のようだし
悪の権化のファヨンは、両親に放置され、死んだ彼女だけが心のよりどころで彼女の死に傷つき奇行に走り、彼女(死んだ親友)の姉がいなければ死んでいたはずだ

バラバラのような関係性なのに、死んだ彼女を中心に、すべてが細かい糸のようなもので繋がっている
その蜘蛛の糸は、結局、彼女のことを雁字搦めにしていた、息苦しさの正体であり
それが韓国社会における問題なのだと、私は感じた

彼女(チョンジ)が残したメモが印象に残った

空気清浄機はあるのに、心の清浄機はないのだろうか?

図書館で「うつ病」を調べていた彼女
SOSは確かに出していた
それに大人たちや同級生が気づいてやろうとしなかったんだ

この世界にはたくさんの人がいて
クラスにはたくさんの生徒がいる
でも、無人島にいるみたいに一人だ
息もできないほど苦しい
でも、それを話せる相手がいない
わかってくれる人がいなかった
唯一の親友は、自分のことをイジメる悪友なのだ

最後に、彼女の姉のマンジの台詞を紹介する

はっきり言っとくけど、チョンジはまぬけでなくていい子だよ。いい子は、そっとしておいたらいいのに、かならずいじろうとするやつらがいるから問題なんだ。自分が気にいったら、いい子で、気にいらなかったら、まぬけなわけ?


そうなんだけど、生きていた時に、もっと妹を見てやるべきだった
死んでから何を言っても遅い


この作品はいい作品です
興味のある方は、ぜひ、お読みください


2019 12/27

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