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『海のはじまり』第9話 恋をしたまま別れ2人

フジテレビ系列で月曜9時から放送中のドラマ『海のはじまり』。このドラマは、『silent』や『いちばんすきな花』の脚本家・生方美久の最新作である。

※この記事には、ドラマ『海のはじまり』の内容が含まれます。『海のはじまり』はFODTVerで配信中です。

第9話「夏くんの恋人へ」あらすじ

月岡夏(目黒蓮)は、百瀬弥生(有村架純)と南雲海(泉谷星奈)の3人でショッピングモールに行く。「行こ!」と弥生の手を引く海。微笑みながら明るく振る舞う弥生だが、夏は弥生の表情に違和感を覚える。

子供服売り場で弥生と海は、一緒に海の服を選ぶ。海が一人で試着室へ入ると、店員に「お母さんも一緒にどうぞ」と言われるが、弥生はなんと答えていいかわからず言葉に詰まってしまう。「弥生ちゃんママに見えるんだね」と笑う海に「…私がほんとにママになったら、嬉しい?」と質問する弥生。すると海は元気よく「うん!」と答える。

海を南雲家に送り届けた帰り道、夏は弥生に海とのことをどうしたいか尋ねる。返事を濁す弥生に、夏は海と3人で一緒にいる時、弥生が辛そうに見えると話す。愛想笑いで誤魔化そうとする弥生。そんな弥生に夏は「別れたい?」と切り出し…。

海のはじまり - フジテレビ

弥生と夏の別れ

第9話では、弥生と夏の別れが描かれた。別れのきっかけは水季の手紙だ。水季が「夏くんの恋人へ」と題した手紙は、次のような内容である。

はじめまして。面倒なことに巻き込んでしまって、ごめんなさい。ハッキリしない夏くん、まだ幼い海、短気な母、気の抜けた父と、厄介な人たちに挟まれて、それはそれは窮屈だったとおもいます。

海を妊娠しているとわかった時、最初は中絶するつもりでした。相手のことを考え過ぎたせいです。でも、珍しく他人の言葉に影響され、自分が幸せだと思える道を選ぶことにしました。夏くんではなく、海を選びました。

そのおかげで、海を産んで、一緒に過ごすことができた。海を見るたび、話すたび、思うたびに、正しい選択だったと思えています。たぶん、人より短いから、幸せな人生だったというのはちょっと悔しいし、他人にあの子は幸せだったと勝手に想像されるのは、もっと嫌です。でも、海と過ごした時間が幸せだったことは、私だけが胸を張って言える事実です。

誰も傷つけない選択なんて、きっとありません。だからといって、自分が犠牲になるのが正解とも限りません。他人に優しくなりすぎず、物分かりのいい人間を演じず、ちょっとずるをしてでも自分で決めてください。どちらを選択しても、それはあなたの幸せのためです。海と夏くんの幸せと同じくらい、あなたの幸せを願っています。

『海のはじまり』本編を元に筆者が作成

水季の手紙にある弥生の言葉

水季の手紙には、弥生が産婦人科クリニックのノートに書いた言葉が書かれていた(太字部分)。中絶しようと決めていた水季は、同じクリニックで中絶した弥生がノートに書いた言葉を読んで、海を産むことを決めた(第6話の記事参照)。ノートに書かれていたのは次の言葉だ。

妊娠9週目で中絶しました。強い罪悪感に襲われています。彼がああしてくれたら、母がこう言ってくれたらと罪悪感を他人のせいにしてしまい、そんな自分にまた落ち込みます。

まるで自分が望んだように振る舞っていただけで、実際は他人に全てを委ねていました。人に与えられたものを欲しかったものだと思い込むのが、私は得意すぎました。後悔とは少し違う。でも、同じ状況の人に、同じ気持ちになってほしくありません。

他人に優しくなりすぎず、物わかりのいい人間を演じず、ちょっとずるをしてても、自分で決めてください。どちらを選択しても、それはあなたの幸せのためです。あなたの幸せを願います。

『海のはじまり』本編を元に筆者が作成

弥生が別れを選んだ理由

弥生が別れを選んだ理由は水季への嫉妬である。弥生は夏と海と3人でいるのが楽しい。海の母になれたらうれしい。しかし苦しくもある。それは、夏と海の中に今でも生きている水季に嫉妬してしまうからだ。水季から海や夏を奪い取ったような罪悪感や、自分の知らない水季のことを夏や海が共有しているという疎外感――それが弥生の苦しさの原因だ。

弥生は、その苦しさを押し殺して海の母になることも考えた。だがそれは中絶を選んだ時の自分と同じく、他人に全てを委ねることになる。弥生が中絶を選んだのは、子供の父親や弥生の母親に理解を得られなかったからだ(第4話の記事参照)。もちろん弥生は自分で中絶を選んだ。その選択に後悔はないと弥生は言う。それでも周囲の理解があれば弥生は違った選択ができたのではないか。

海の母になるという選択肢は、たまたま弥生が夏と付き合っていたことから生まれたものだ。弥生が母親になってくれたら嬉しいと夏は言う。弥生が海に「私が本当にママになったら嬉しい?」と尋ねると、海は「うん」と答える。海の母になってほしいという夏や海の希望を、弥生は自分の希望だと思い込んでいた。弥生はそのことに水季の手紙を通して気付いたのだ。

水季の手紙に書かれていた言葉は、弥生自身が書いた言葉だ。そのことに弥生が気づいていたのかは分からない。だが、その言葉おかげで弥生は自分の幸せのための選択をした。その選択は夏にとっても必要なもののように思える。

弥生との別れが夏を父にする

夏は、いつも弥生を頼っていた。夏が弥生に打ち明けたように、弥生が海の母親になってくれたら夏は楽だと思っていた。一人で親になるのが不安だからだ。第9話冒頭でも、夏は迷子の子供の対応に困っているところを弥生に救われていた。弥生なしで海の父親になる覚悟が夏にはあっただろうか。

弥生と別れた夏は、海と2人で暮らそうと考えていることを朱音に伝える。「一番大切にします。他の何よりも絶対優先します。頑張ります」。夏の言葉に、いつもの曖昧さはない。朱音は「当たり前でしょ。そうじゃないと困ります」と返した。祖母である朱音からすれば、夏が海を再優先するのは当然だ。だが、その当然ともいえる夏の覚悟には、弥生の後押しが必要だったのだ。厳しくも思える朱音の言葉は、夏の覚悟を認める言葉でもある。

恋をしたまま2人は別れた

夏の部屋での別れ話の後、夏は弥生を駅まで送る。2人は出会った頃のように久しぶりに何でもない話をする。今日まで、終電まで、2人は別れを引き伸ばす。終電前の電車に弥生は乗る。引き止める夏を置いて。夏は涙を流す。夏に背を向けて電車の座席に座る弥生も泣いていた。恋をしたまま、2人は別れた。2人の別れは永遠の別れなのだろうか。それは分からない。だが弥生が今後どんな選択をするにせよ、それは自分の幸せのためなのだろう。

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