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【追記あり】ドラマ『いちばんすきな花』 第9話 4+1≠5

※2023年13時00分追記:「感情を取り戻した美鳥」の項を追記しています。そのほか、一部補足しました。

この記事は、フジテレビ系で10月から放送中の連続ドラマ『いちばんすきな花』の第9話までの内容を含みます。『いちばんすきな花』はFODで配信されています。

このドラマの主人公は潮ゆくえ(多部未華子)、春木椿(松下洸平)、深雪夜々(今田美桜)、佐藤紅葉(神尾楓珠)の4人です。第9話では、第8話に続いて、主人公4人の共通の知り合いである美鳥(田中麗奈)と、主人公たちとの過去が描かれました。美鳥は、主人公4人がよく集まる椿の家の前の持ち主です。美鳥はこの家を買い戻して、以前営んでいた塾を再開しようとしています。

紅葉にとっての美鳥

美鳥は紅葉の高校時代の数学教師でした。紅葉は1人で美鳥の数学の補習を受けています。紅葉は、解ける問題はすでに解き終わっているのに、もう少し考えると言って、補修を引き伸ばそうとします。なぜなら、クラスメートに誘われたカラオケに行きたくないからです。

そんな紅葉に美鳥は「友達いないでしょ」と、聞きます。紅葉は「いますよ。今カラオケにいます」と、答えます。「今カラオケにいるのは、ただのクラスメートでしょ」と美鳥が返すと、「友達です。昨日見たドラマの話とかするし、好きな子の話とかするし」と、紅葉は反論します。

「好きでもない、はやってる歌歌って、話合わせるために興味ないドラマ見て、ちょうどいい女の子好きってことにして。友達と友達するために」と、美鳥は紅葉のことを否定します。

そんな美鳥の言葉を「嫌いな自分を否定してもらうことで、自分の気持ちを肯定してもらえた」と、紅葉は回想の中の独白で振り返ります。紅葉は「友達するための友達」と一緒にいる自分が嫌いだったのでしょう。そんな自分を美鳥に否定されることで、紅葉は救われたのです。

別の補修の日、教室の前の廊下を篠宮と黒崎が通りかかります。篠宮と紅葉はお互いに小さく手を上げて、あいさつしました。美鳥に「友達?」と問われた紅葉は「1年のとき一緒にいたやつと、2年のとき一緒にいたやつです」と、答えます。「それは友達じゃないの?」と、美鳥は再度問います。

紅葉は篠宮と黒崎のことを友達とは呼びませんでした。「1人になりたくなくて一緒にいただけだから。あの2人も1人だったから、ちょうどよかっただけ」と。篠宮と黒崎もお互いに友達とは思っておらず、1人になりたくなくて一緒にいるだけだと、このときの紅葉は思っているようです。

第5話で、紅葉と再会した現在の篠宮は、黒崎のことを友達と呼んでいました。しかし、紅葉と篠宮はお互いのことを友達だと呼べませんでした。そして、2人の再会は悲しい結末を迎えます。詳しくは以下の記事をご覧ください。

「お邪魔しました」と「また、おいで」

「自分も中学のとき、学校のやつみんな死ねって思って、いつも1人でいたんだけどね」と、美鳥が中学時代を振り返ります。

「教室じゃ静かなくせに、2人でいるとすごいしゃべる変なやつがいて」

変なやつとは、椿のことです。

「やりたくもないゲームのルール勝手に教え込まれて、相手させられて、しかもそいつんちで」

やりたくもないゲームとは将棋のことです。美鳥は椿から将棋を教わっていました。

「私が1人でいたから、ちょうどよかったのかな。一緒にいたの嬉しかったけど、ちょうどよかったってだけなのかな」

紅葉は何か言いたそうです。しかし、言葉が出てきません。このとき紅葉は、篠宮や黒崎のことを友達と呼ばず、「ちょうどよかった」と、言ったことに罪悪感を感じたのかもしれません。

美鳥が紅葉の答案の採点をしていると、答案の裏に落書きを見つけます。座って話す2人組の絵です。この2人組は紅葉と篠宮なのかもしれません。紅葉は篠宮と2人でいるとき、よく一緒に絵を描いていました。そのことを思い出しながら、紅葉はこの絵を描いたのではないでしょうか。美鳥は、この絵に桜の花を描き足しました。紅葉が絵を描き続けているのは、美鳥からの影響もあるのかもしれません。

美鳥から答案を受け取った紅葉は、「お邪魔しました」と言って教室を出ようとします。「うん。また、おいで」と、美鳥が返します。この「お邪魔しました」と「また、おいで」は、第5話で紅葉と椿が始めたやり取りと同じです。

紅葉は、この「また、おいで」を、高校時代の数学教師から言われたことを第6話で椿に話していました。この教師が美鳥であったことは、第8話で明らかになります。美鳥にかけられた言葉を、紅葉はずっと覚えていたのです。

そして、「お邪魔しました」は、第5話で、紅葉が篠宮と別れるときにかけた言葉です。紅葉は、篠宮にも「また、おいで」と返して欲しかったのかもしれません。篠宮は「また、おいで」ではなく、「バイバイ」と返しました。

帰りたい家

また別の補修の日、遅くなったことに気づいた美鳥は、補修を切り上げると紅葉に告げます。「6時には行かないと」と、美鳥は紅葉に言いました。行き先は美鳥の自宅でした。自宅に「帰る」ことを「行く」と表現したことに、紅葉は引っかかります。美鳥の結婚生活はうまくいっていませんでした。美鳥にはこのとき、まだ帰りたい家がなかったのです。

シーンは紅葉の卒業式に移ります。生徒に囲まれる教師がいるなか、美鳥の周りには誰もいません。美鳥の姿に紅葉が気づきます。紅葉と目が合った美鳥は、紅葉を追い払う仕草をします。自分のことより、「友達するための友達」を優先しなさい。美鳥は紅葉にそう伝えたかったのかもしれません。

いつも、いらいらしていて、不機嫌で、みんなから嫌われていた――紅葉は美鳥のことを回想の中で、そう説明しました。しかし、少なくとも紅葉は美鳥のことを嫌ってはいません。紅葉は美鳥となら苦手なはずの2人組になれたのですから。紅葉は願っていました。いつか美鳥に帰りたい場所ができることを。その場所は、紅葉が居場所だと感じ始めている椿の家なのです。

感情を取り戻した美鳥

このあとのシーンでは、美鳥が離婚して教師を辞め、東京で塾の講師をしていた時代が描かれます。夜々と再会した美鳥に不機嫌さは感じられません。美鳥は結婚していたころの自分は、感情を失っていたと振り返ります。

離婚して感情を取り戻した美鳥は、椿のことを友達と呼べるようになっていました。夜々に教えた将棋は、中学の友達から教わったのだと。夜々にふるまった料理は、その中学の友達の母親から教わったのだと。

紅葉は、現在になっても篠宮や黒崎のことを友達と呼べませんでした。紅葉は、まだ自分の感情を完全には取り戻せてはいないようです。紅葉が押し殺した自分の感情を取り戻せたとき、篠宮や黒崎のことを友達と呼べるのでしょう。

4+1≠5

主人公4人は、美鳥を5人目に迎えます。椿の家での4人の集まりに、美鳥を誘ったのです。美鳥の作った料理を、いつも4人が座っている4人掛けのダイニングテーブルではなく、5人でローテーブルを囲んで食べました。しかし、美鳥はどこか居心地がよくありません。美鳥はあまりに仲のよい4人の輪にうまく入れないのです。

象徴的なのが、替えのごみ袋の位置を家主の椿だけでなく、紅葉やゆくえ、夜々も把握していることです。「ごみ袋どこにあるか分かるって、暮らしてるってことだよ。帰る場所ってことでしょ」と、美鳥は4人に告げます。4人の帰る場所を自分が奪ってよいのかと、美鳥は悩んでいるようです。翌日、北海道の実家に戻る美鳥を、ゆくえが空港で見送ります。

「5人じゃなかった。4人と、自分1人」

前日に5人で過ごしたときのことを、美鳥はそう表現しました。楽しかったけど、関係性が出来上がった4人の仲間にはなれなかったと。主人公4人と2人ずつで出会った美鳥は、主人公たちと2人でいるのが心地よかったのです。

「仲間に入れなくていいし、むしろよかった」「この4人が出会えたって思うと、今まであったこと全部、意味があったって思える」と、美鳥はゆくえに言いました。辛いことの多かった人生のなかで出会った4人が、奇跡的に出会い、仲良く過ごしている。そのことが美鳥の人生を肯定してくれているのです。

美鳥と別れるときゆくえは、「バイバイ」と言います。ゆくえは「いってらっしゃい、帰ってきてね」と念を押します。美鳥は「いってきます」と、返しました。

美鳥は東京に帰ってくるのでしょうか。それとも、4人の帰る場所を奪わないために、東京に帰ってくるのを諦めるのでしょうか。

美鳥は帰って来ると私は思います。第5話の記事で書いたように、「バイバイ」は永遠の別れを意味しません。「バイバイ」と言って別れた人は、このドラマのなかではまた戻ってくるのです。

『いちばんすきな花』についての記事は以下のマガジンにまとめています。


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