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【物語に見る信じ込み】 竜とそばかすの姫②

2021年7月公開の『竜とそばかすの姫』に見る信じ込みの世界。2回目は、Uの中で厄介者として扱われる竜と、その他のキャラクターについてみていきます。主人公の鈴については↓を見てみてください。

*内容にネタバレを含むので、作品をご覧になってから読まれることをおすすめします。

嫌われ者の竜の痛み

仮想空間であるUの中で、ライブをしていた鈴(Bell)のところに、竜というキャラクターが乱入し、自警集団ジャスティスとの闘いが始まります。竜は一人であるにも関わらず、向かってくるジャスティス達を再起不能になるまで叩きのめしてしまいます。

その様子が気になった鈴は、竜を探してあちこち彷徨い、竜が住んでいるという城を見つけ、どうしてそんなに暴力的になってしまったのかを尋ねようとします。しかし、なかなか竜は心を開こうとしてくれません。そして、Uの中では一体竜は誰なのかという憶測が飛び交います。

竜の住む城を見つけ、近づいてこようとするBellを竜は遠ざけようとします。「お前は何もわかっていない!」と言って関わりを避けようとしています。Bellは、増えていくあざをみて、「本当に傷ついているのはここね」と言って竜の胸に手を置きます

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物語が進むにしたがって、竜は恵(けい)という男の子で、鈴と同じように母親を失っていて(亡くなったのか出ていったのかは明言されていませんが)、弟の知(とも)と一緒に父親の家庭内暴力を受けているというのが分かってきます。

鈴が竜の事が気になって仕方がなかったのには、理由があります。それは自分と同じように母を失った痛みを持っていて、直接その事実を知らなかったにも関わらず、相手の持つ同じ痛みに無意識に反応していたからです。

恵は、発達障害?を抱えている弟の知に対する父親の暴言や暴力から知を守ろうとして、言葉が届かないように耳を塞いであげたりしています。その時に自分が傷ついたものが、Uの世界ではあざとなって表出しています。

恵の父親は、インタビューでは良い父親を演じていますが、実際には物に当たったり、罵ったり、力づくで言うことを聞かせようとしたりしています。こういう暴力が、恵の人格を歪め不信感の塊にしてしまう程に強い影響を与え続けています。

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Uでは、現実世界では歌えない鈴が本当は歌いたいと思っているから歌が歌えるように、潜在意識が反映された自分の姿が投影されていると考えられます。そのため、現実世界で物理的に傷ついていなかったとしても、傷ついた心がそのままUの姿で立ち現れるのだと思われます。

恵を慈しみで守った鈴

恵に現実世界でコンタクトした鈴は自分がBellだと信じてもらえず、「誰も助けてくれない!」と恵には信用されません。そのため、鈴は本当の自分を晒す覚悟を決め、自らをアンヴェイルしてUの中で歌います。

その後、恵と知が東京に住んでいると特定し、鈴は単身助けに向かいます。暴力を振るおうとする父親に毅然と立ち向かう鈴の姿を見た恵は、初めて母親のように守ってくれる人が現れたことを目の当たりにして、心を開いていきます。

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救いがないと思った時、人は自暴自棄になり周りを攻撃し始めます。そこには、恨み、悲しみ、怒り、分かってもらえないといった様々な信じ込みが潜んでいます。しかし、慈しみによってそれらを受け止めてあげられる人がいることで、その痛みは消化されるということを表しています。

知が不安定になってしまった理由

最初にBellを見つけ、フォローした天使のような形をしたAsのオリジンが知だと思われます。知は歌を歌っているところを父親に見とがめられ、びっくりして倒れてしまいます。

行動の様子から、発達障害の一種を持っているように見受けられるのですが、その主な原因は家庭環境にあると考えられます。母がいない家庭で、父から日常的に暴力を振るわれる環境にいるということが発達に影響を及ぼさないわけがありませんね。

もう少し言うと、暴力を振るわずにはいられないような痛みを持った父親の強い信じ込みを受け継いでしまったがために、発達障害になってしまったと考えられるわけです。

親が本来性で生きている場合、支配しようとしたりすることがないので子どもはすくすく育ちます。しかし、親自身が痛みに基づいて生きていると、その信じ込みを遺伝レベルでも引き継いで、さらに直接的な出来事でそれを強化することによって子どもをおかしくしてしまうのです。

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そういった意味で、この知の発達障害は、痛みを持った父親に対するメッセージであるということができます。「お父さん、本来性で生きていないよ!」と子どもがお知らせしているのです。

ジャスティスという欺瞞

警察というものがない仮想空間のUに、自警団を称して登場するのがジャスティス、そしてそのリーダーがジャスティンです。彼らは、Uの治安を守るためと言いながら竜を執拗に追い続けています。

彼らは自分たちの正義を振りかざし、竜を攻撃し城をしらみつぶしに探した上、火を放ちます。ジャスティンは、Bellを捕まえてきて「竜の居場所を言わないとアンヴェイルするぞ!」と言って脅しをかけたりもします。

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現実世界がそうであるように、Uにおいても秩序を乱すものは排除すべしという論理が一般的で、ネット上でも「竜を捕まえろ」というある種の世論が形成されています。

上で見たように、竜(恵)は暴力によって傷ついた心がUの中で非常に強い暴力性として発現しているに過ぎません。しかし、そういった部分は全く見ようとせず、ただ排除すればいいというのが趨勢であり、それが幅を利かせているが故にジャスティスが力を持つことになってしまったのです。

ここで重要なのは、悪人に生まれてくる人はいないということです。現実の日本でも時々凄惨な通り魔事件などが起こりますが、どれだけ暴力的で、猟奇的な行動をとる人であったとしても、最初からそうであったということはないのです。

よく家庭環境がどうだったという話が出てきますが、必ずしもその人だけが悪いということではなく、人類全体にそういった正義と悪で分ける考え方が蔓延っているがために、悪役を演じる人が現れてくるということなのです。

物語の中では、鈴が慈しみで恵を包んだことによって、ジャスティスがやろうとした排除とは全く違う道が拓けていきます。これは、悪者を逮捕、投獄してしまえばいいという現代の世界でスタンダードとされている考え方に大きな疑問を投げかけていると言えるでしょう。

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実際のところ、正義と悪、良い悪い、優劣などの考え方そのものが、信じ込みそのものだったりします。「俺の言うことが聞けないのか!」と言って暴力を振るう恵の父親や、Bellを脅すジャスティンは、彼らの正義を振りかざしていますが、分かってもらえないという痛みが非常に強く出ているだけなんですね。

まとめ

全体のまとめです。
・恵は鈴と同じ母親を失った痛みを抱えている
・恵は父親からの暴力によって人間不信になるほどの痛みを抱えている
・知は父親からの暴力によって発達障害にならざるを得ない状況に置かれている
・ジャスティスという正義は、自分をわかってほしいという痛み

この物語で起こっている信じ込みや痛みに基づく出来事はただのフィクションではなく、現実の世界で日常生活の中で自分が実際に引き起こしているものだったりします。もしその痛みを手放して幸せに生きていきたいと思われたらそのお手伝いをさせていただきます。
お問い合わせは下記まで
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