見出し画像

推しが更地になる界隈

古い建物を愛することは喪失と背中わせだ。

Googleマップ散歩で見つけた、なんの変哲もない角地の建物。
駅前エリアの繁華街から少しだけ遠ざかった立地でなにかしらの商売を営んでいたのか、出入り口が多い。
この建物の何が目を引いたって、二階の窓がステンドグラスっぽいのだ。
最新のストリートビューでは左側の窓はモザイクになっているが、過去に遡ると白百合の模様が見える。右側は赤青黄緑の色ガラスがランダムに配置されている。建物左に回り込むと、とても小さな小窓にも模様が入れられている。
摺りガラス越しなのではっきりはしないが、玄関上にカメオのような絵が見えるので、美容室だったのでは?と推理したりしている。
室外機は置いてあるが空き家の雰囲気。途中、表札が消えている。
どんな営みを内在していた建物なんだろう。
2022年1月のストリートビューには在った建物だ。

「いつか見に行こうリスト」に入れて、一度チャレンジしたのだけど時間がなかった上に私の方向音痴が発動してしまい、たどり着けなかった。
2024年7月26日に二度目の挑戦をした。熱中症アラート発令中の超酷暑の14時台。視界が白く破裂するような炎天下を歩いて、私は駐車場にたどり着いた。
数年経過した色合いの、コンクリート仕上げの駐車場だった。弁護士事務所が立ち並ぶエリアで、来客用の駐車場になっていた。

それほど古いわけでも、傾いているわけでもない建物だったけれど、住居でも店舗でも倉庫でもないまま、駅前エリアに存在し続けるよりは駐車場になった方が土地も活かされるというもの。
古い建物を愛してしまうと、ちょっと目を離した隙に喪失の一撃を食らわされることになる。
耐震とか、都市開発とか、相続とか、いろんな理由があると思う。
誰かが鍵を開け、窓を開け、その中で暮らしたり、仕事をしたり、お客を招いたりしていた空間。途方もない人生のログの溜まった空間。
二階のガラス窓に色を入れようと決めた時。
この建物を取り壊そうと決めた時。
どんな人が、どんな人達と、どんなやり取りを繰り広げたのだろう。
私には知る由もないけれど、確かにこの世に存在した決断の結果。
私は無責任な傍観者として眺めて肩を落としてUターンした。

私の推し、すぐに更地になっちゃう。
だからと言って都市鑑賞ウォーキングの頻度を上げるぞ!とは、この殺人的な暑さを前に気勢を上げることはできない……。
せめて、ど田舎の我が家で涼しい風に吹かれながら、あの美しいガラス窓達がどこかで別の生を授かっていることを願おう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?