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うちの猫

うちには一匹の猫がいる。名前は「マロン」。家族で考えた。毛色が茶トラでクリーム色に近かったので「マロン」である。ちょうどこの画像のような。

どこが違うかというと、実はマンチカンなのだ。マンチカンというとスコティッシュフォールドに並ぶ人気。短い足でとてとてと歩く姿が愛らしい。大きな目と短い足。犬で言うならダックスフンドとチワワを足した感じだろうか?

ところがうちの子は安く売られていた。

人気のある種類は値段が跳ね上がる。なぜ安かったのか?――実は足が短くないのである。足が短くないという理由で売れ残り、その話を聞いた子供たちが同情し、姿も愛らしかった(まだ成猫ではなかった)のでうちには7ヶ月のマロンがやって来た。

7ヶ月……けっこう大きい。ところが臆病でなかなか家になれずおどおどしている。仕方がないので、これは家族の誰も知らないことだと思うが、「これからはお前のお母さんはわたしなんだよ」と言って聞かせて夜中に抱っこした。安定するまでそうしていた。

そうして1ヶ月ほど経った頃だろうか?家族で毎年、恒例のキャンプに行くことになった。長時間の移動に耐えられるわけもないし、キャンプ場に猫がいるのも見たことがない。近くに住む猫好きな実家の母に頼んで預かってもらうことにした……が。

キャンプの買い物に家族で出かけて、帰ってきたらびっくり。足をケガしている。後ろ足をつかないように歩く姿にこちらも気が動転する。動物病院に勤務した経験のある妹に即電話すると、足をつけられないのは骨折の可能性があるので、病院に行くべきだということ。急いで病院に行った。

行った先の先生は折れている可能性が高いと言った。が、市内でレントゲンの撮影などの機材が整っているのはひとつの病院だけだという。急いでそこに行くように言われる。

その病院は市内でも有名で、たくさんの人が犬や猫を連れて待っていた。長いこと順番を待つ。と、やはり骨折。しかも院長先生にしか手術できない骨折。大腿骨がぼっきり折れて、折れた先が今にも皮膚を突き破ろうとしていた。これはもう、確かに手術しかないよね、という画像。添え木などで治るようには到底見えない。

手術代を聞くと32万!本体を買った価格以上。幸い動物保険に加入していたので半額にはなるが、入院費用などを含めると……やはり本体価格に近い。

しかも院長先生は出張でいない。できるだけ早く、手術しろと言われ、他の病院を3ヶ所勧められる。……あった!1時間ほどのところに、骨折手術専門の動物病院が!

連れていくと、手術代も半額。人間と違って、病院によってお代はかなり変わるようだ。もちろんここも保険適用。病院に猫を預けて、キャンプに行くことになった……。なんだか、である。

キャンプから帰って病院に迎えに行くと、先生が「歩かせてみましょう」と台から下ろした。とてとてとて……と普通の速度で病院の内側の方へ突進していく。あんなに心配したのに、すっかり元気だ。餌もよく食べたという。足には鉄板とボルトが入ったが、元気が一番だ。家族みんな、帰ってきたマロンをいっそうかわいがった。

ところでこの話には裏がある。先述した通り、買い物に行っている間に骨折したのだが、病院では虐待を疑われまくったのだ。大きな買い物だったかわいい家族を虐待してどうするというんだろう?気の毒そうな顔をして「ところで……」と聞かれた時の何とも言えないもやもやした感じは今も胸に残っている。

推測するに。マンチカンというのは縦運動、つまり飛んだり高いところに登ったりするのが好きで、うちには二階までの吹き抜けが玄関にあるのでそこから落ちたのではないのか、と。

ちなみにその後も、「ダン!」とすごい音をたてることが何度かあったが、骨折はしていない。懲りない猫だ。登れないように人工芝のようなものを貼ってしまおうかという意見もあったが、どこにも登れないのではかわいそうである。ちなみにベランダの手すりにも登る。あまり懲りていない。

うちは狭いので、猫用の縦型の上り棒のようなものも置いてあげるわけにいかず、落ちないでくれと念を送る日々だ。

そんなマロンも幾星霜。大きくなって(マンチカンは大形だったらしい)、なぜか前足も微妙に短くなって、縦運動も少し落ち着いた。たぶん、もうオジサンなんだろう。

臆病だった分、甘えん坊で、今も家族みんなに愛されている。そうして今も、動物保険は解約せず、高い保険料を払い続けている。

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