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『初恋〜お父さん、チビがいなくなりました』を観て

原作があることも知らずに何となく観たのですが想像以上に良かった。
 東京郊外にある武井家。一家の主、勝が37才の時に建てた設定らしいので、ざっと築三十年ほど。年季が入っているけれど、妻有喜子がきれいに手入れしているだけあって、とても居心地が良さそうなお家。日用品と小物が並んでも清潔感のある玄関、レトロな雰囲気の残る台所、こたつカバーは編み物が趣味の有喜子の手作りかもしれない。
 映画を観る時に家具や小物などを見るのが大好きで、今回も登場人物が暮らす部屋を見るだけでも楽しかった。生活感と清潔感がちょうど良い塩梅の空間を見て、日頃から有喜子がきちんと家事をしていることが伝わってくる。

 飼い猫が失踪したことを契機にそれまで蓋をしてきた妻有喜子の思いはより強くなる。そんなことに全く気付きもしない夫勝。昔気質の象徴のような人物像。寡黙で、家事は女がやるもの、女は男より三歩下がってついてくるものだと言ってそうな。
二人が出会った頃のエピソードも描かれ、一組の夫婦の過去と現在が描かれる。

 この二人が大体うちの両親と同じくらいの年頃。なのでこの二人の子どもたち三人は大体私と同世代くらい。
末娘菜穂子が実家の近くに住むのは本当に正解だ。

彼女が「私、結婚やめたこと後悔してないの。このままずっと結婚しなくても、子どもを持たなくても。それでいいと思ってる。」と夜中母に語るシーンの台詞。昔ではあり得ない考え方であろう。有喜子くらいの世代の女性はまず反対するのではないだろうか。結婚して、子どもを持つことが女の幸せだとほぼ刷り込みで信じているゆえ。
 離婚して子どもと暮らす私に対して、「お母さんだったら、出来なかったことだわ。あんたはすごいよ。」と二人で台所に立っている時にポツリと言われたことがあって、やはり三人の子育てに苦労して家の中のことを一切しない父に困り果てていた頃の昔の母を思い出したことがある。あの頃離婚したがっていた母。でも出来なかったし、しなかった。

 嵐を乗り越え、空を仰ぐと青空が広がっている。そんな風に作品は終わってゆくけれど、彼らを待ち構えているのは「晩年」だと思われる。
二人仲良く近所の木立の小道を歩いていると有喜子が子猫を見つけて手をのばそうとする。すると、勝が「そのままにしておきなさい。俺たちの歳じゃ、最後までこの子の面倒をみきれん。」と言葉をかける。すっと納得する有喜子。
 いつかこの時間は終わってしまう。ずっとは続かない。だからこそ、自分の想いを大切にしたいと人は切望する。

倍賞千恵子さんを見ると、つい「さくら」を思い出してしまいますが、本当にお綺麗な方。そして藤竜也さんもかっこよかった。二人とも背筋がしゃんとしてらっしゃる。
良い作品でした。

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