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とあるネットスラングについて

さっきこんな記事が目に留まった。

2000年前後から、ネットの世界を覗いている身としては、なんとも古式ゆかしいネットスラングであるところの「くぁwせdrftgyふじこlp」。これの誕生日が特定されているというのは初めて知った。もう18年も前のことである、というのも驚きだ。

発音をするのも難しいこの言葉が、なぜこれほどまでに広まったのか、ちょっと考えてみた。おそらく似たようなことは、この18年の間にきっと誰かが言っているとは思うが。

まず第1の理由はおそらくこれであろう。

理由その1:「ふじこ」という文字列が入っている

全体としては、無意味な文字の羅列っぽくありながら、そこに唐突に日本語の、しかもヒトの名前っぽい文字列が現れる。3つの点があったら人の顔のように認識してしまうように、この文字列のおかげで、人格、とまではいかないが、なにがしかの意味が、この言葉に宿ることになったと思う。

加えていえば、「ふじこ」という名前も絶妙なチョイスである。(今の若者はもうピンとこないかもしれないが)あの頃、ネットの世界を行き来していた世代にとって、「ふじこ」といえば『ルパン三世』の峰不二子である。エロスと混沌と裏切りの象徴のようなキャラクター。この唐突な「ふじこ」は、他の名前以上に、この混沌の文字列に強烈な印象を与えたに違いない。

あ、「フジ子・ヘミング 」の可能性もあるかな笑

閑話休題。もうひとつ考えられる普及した理由は、これではないか。

理由その2:読めない

正確には、読み方が一つに決定しない、というべきか。だからこそ、ネット上の物好きたちは、このネットスラングの「読み方」を模索してきた。この言葉がタイトルについた楽曲も誕生したりした。最近では、アニメ『ゆるキャン△』のセリフでこの言葉が出てきて、担当声優が「音読」していた。

そうした結果、きっとネットのあちこちで、ギークたちの各クラスタで「俺たちの間ではこう読む」というものができたのではないか。ネットに出入りする集団全体としては「読めない文字列」として共有し、細分化した共同体の中では「その共同体(界隈)のみで通用する読み方をもつ文字列」として共有する。

二重構造の共通言語として機能し、普及したのではないだろうか。

このスラングは、キーボードありきで生まれた言葉。スマホが普及した現在では、辞書登録でもしておくか、あるいは予測変換に頼らないと出力できない言葉。近い将来、入力デバイスとしてのqwertyキーボードはなくなる可能性が高そうだ。そうなった時、この「くぁwせdrftgyふじこlp」という言葉は、どのように生き残っていくのか。そしてどのように説明されていくのか。

意味などほとんどない、おふざけのようなネットスラングでも、考えさせられるところは多く、興味は尽きない。


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