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一首評:門脇篤史「揺れる」より

エアコンの生みたる風に揺れてゐる書架より垂るる栞のあまた
門脇篤史「揺らぐ」より(『西瓜』創刊号収録)

現代の日常において、様々に「揺らぐ」ものを歌った連作10首のうちの一首。

「生みたる」「揺れてゐる」「垂るる」と繰り返されるル音が全体のリズムを作り出している。またそのル音が続くということは、ウ列の音で終わることが続くことになる。ここでの描写のフォーカスの絞られ方(エアコンの風の吹く部屋→書架→栞)と合わせるように、その口の形同様どんどん狭まっていくイメージを生んでいき、結句の最後で「あまた」とア列の音が三連続で並び、一気に解放される。もっと言えば空気が弛緩する。その落差が愉快だし、本の栞(「風に揺れて」いるのだから紙の栞ではなく、本に付随する平織りの紐の栞、いわゆるスピンのことだろう)が何本もゆらゆらと揺れている光景は、どこかのどかだ。

とはいえ、その風は自然の風ではなく、「エアコンの生みたる風」であるところは、自然の風ぐらいでは涼が得られない昨今の夏らしい景色ともいえそうだ(と、ここまで書いたが、考えてみたら冬の温風の可能性もあるのか……)。

ここからは勝手な願望だが、ここでの栞は、きっちりと最後まで読まれた本よりも、中途半端に読まれてそのままになっている本たちのものであってほしい。いわゆる「積ん読」の本の栞であればなお良い。そちらの方が、なんだかここでの栞のありようにあっている気がするし、そんな本たちの栞の揺れるさまに気づいた時の、人の心の「揺らぐ」様子を想像したくなるのだ。

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