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『木下利玄全歌集』がなんだか良い

日曜日の夜、寝る前にふと本棚の『木下利玄全歌集』を手に取り、横になりながら読んでみた。

木下利玄/五島茂編『木下利玄全歌集』岩波文庫

この本自体は、確か去年の夏の「下鴨納涼古本まつり」で不意に見つけて、なんとなく気になって購入して、そしてそのままにしてあったものだ。

これが、なんだか良い。

木下利玄は、明治後期から大正にかけて活躍した歌人。『木下利玄全歌集』には彼の歌集『銀』『紅玉』『一路』『みかんの木』が収録されている。

私は近代歌人の作品については甚だ不勉強で、よくわからないところも多い。だからこの『全歌集』もちゃんと読めている自信はない。それにまだ今のところ歌集『銀』までを読み進めただけだ。

それでも、なんだか良いのだ。

上手くは言語化できないのだけれども、視線の向け方というか、全部の短歌がそうではないのだけれども、連作の中で、急に強烈に微細な一点に視点が集約する瞬間がある。その時のイメージが鮮烈なのだ。

見透しの田舎料理屋晝しづか桃さく庭に番傘を干す

木下利玄「八つ口」より(歌集『銀』収録)

山の木々黒き黄色きかさなりてわれ一人(いちにん)を見下(おろ)すさびしさ

木下利玄「落葉樹」より(歌集『銀』収録)

ブリッヂの赤き絲くづ人ふみてなほのこりゐる赤き絲くづ

木下利玄「糸くづ」より(歌集『銀』収録)

我が顔を雨後の地面に近づけてほしいまゝにはこべを愛す

木下利玄「肌身」より(歌集『銀』収録)

Wikipediaなどによれば、初期は官能的、感傷的であった歌風が、自然主義・写実主義へと傾倒していくらしい。もしかしたら、また印象が変わるかもしれない。さらに読み進めていくのが、楽しみである。

書評というほどの内容ではないが、ここまでで気に入った短歌を少し並べて、感想を書いてみた次第である。

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