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ブランチとコヒーレント (12)

2022年4月のコヒーレント

3月17日の燎デビュー後、ライブのラッシュが始まる。
デビューの翌週月曜と土曜両日ダブルヘッダー。オタク初心者の自分にとってなかなかのハードスケジュール。時間的にも、お金的にも。ダブルヘッダーの間は6時間空いていてどうしたものかと思案し、結局秋葉原〜上野を歩きつつ、趣味の物眺めたり普段行かなそうなお店に行ったり。しかし1日でいくら使ってるんだ。

そして4月。2週間のインターバルを挟んでのライブ。
見逃したくないと思うもそうはいかず。仕事スキルと生活あっての推し活など言いつつ、50過ぎのオヤジは仕事中にタイムテーブルを見てそわそわする。あぁ今頃、燎はステージ上か。

更に次のステージは川崎Club Citta。Club Cittaは昔から海外のアーティストも会場にするくらいの、自分の憧れを超えた先にあるステージ。そんなすごいところに推しさんが立つのか!けど、元々その日は資格試験があり当初は参加を見送っていた。

ところが色々あってその別の予定もこなせず。ちょっとずれていればどれかの予定はこなせていたはずなのに。

全てが噛み合わないモヤモヤした気持ちを消すためかのようにライブ配信を購入して、その日の夜中に時間差で観る。

ライブ中、ねこさんが転倒。あざとい転び方なんかじゃない、結構本気の転び方、思わずあーっと声をあげてしまう。ねこさんはすぐに立ち上がり演じ続ける。
演じている様子を見ると大丈夫そうだけど、足首とか大丈夫だろうか、どこか打ったりしていないだろうか、体の痛みを庇うようなそぶりになっていないか、液晶画面を食い入るように見る。

テーブルの向かいに座る嫁さんは怪訝そうな顔で自分を見る。
失礼いたしました。

4月21日まで仕事を前倒しして時間を捻出、平日夜のライブに。若い衆に残りの仕事を委ね、明るい内に会社を出る。普段から仕事を互いにフォローし合っているとこういう時に助けてもらえるからありがたい。またよろしく頼むよ若い衆、と振り返る事もなくライブハウスに急ぐ。

今日は新曲の発表。次はどんな曲だろう。

デビュー1曲目の延長線上にある前向きさに溢れた、たてみん曲。今回は果南さんから歌が始まり、ねこさんが繋ぐ。好き好き大好き連呼みたいな曲では無いけど、これまでの彼女らの道のりを想うと振り上げる拳にもつい力が入る。

オタク初心者の自分がここ1ヶ月の間に出会った燎の対バンで知った人がアイドルグループ脱退、などのニュースを聞いてその度にびっくりしたけれども、この世界では良くある話らしい。そう聞くと、燎はどうなんだろうと思わなくも無いけど、新曲にある「何度でもここで歌うよ」と言うフレーズを聴いて、そう容易にどこかに消えてしまったりしないよね、と。

この日のライブは今までと違う経験をする。
最前列には見知らぬ人が並ぶ。てっきりお目当ての演者さんに応じてファンの位置取りは都度交代されるものと思っていたのに、今日はそれが無く、開演からずっと同じ人が立ち続けている。

自分のお目当ての時に一番良い場所に立つために、お目当ての演者さんかどうかは関係なく、開演からずっと最前列にいる、入場順の優位性を使った場所の確保の仕方。

ライブの状況によっては最前を確保できないのは百歩譲って仕方ない。しかし最前列中央で燎の公演中に座り込みスマホをいじるオタクがいる。なるほど、確かにこれはかなりムカつく。自分の推しをバカにしている。

最前列の人の隙間にちらちら見え隠れする二人をなんとか捉えようとするのが精一杯。曲を聴きながら、次の振り付けでここを通るはずだと闇雲に連写する。残念ながら写真は壊滅。ほとんどがオタクの背中や後頭部と誰もいないステージ。これまではライブで撮影をすると必ず燎の二人には上がった写真を大体50枚前後は送る事ができていたけど、1枚も送れない回となる。

新しいファンを獲得するためにも、対バンの観客に対するアピールは重要だ、わかってる。今回、かろうじて写真で捉えた二人の姿は、撮影した観客の隙間に辛うじて写るねこさんが最前列の人に送る可愛らしい笑顔。これ、自分には決して向けられる事がない顔。まあそれはいいとして、こちらに目線が来る事は無いにしても、彼女らを写真に収める事もほとんどできず、こちらが観ている事を客席から伝える事もできないライブになった。

一方で、Music Bar Cordaでご一緒する機会がちょくちょくある常連さんと現場でご一緒して絡んだり、時は遅かったけど最前にいた方がこちらの背中の燎の文字に気づいて場所を譲ろうとしてくださったり、こういう配慮もあるんだなと知る機会にもなった。
オタクの世界、何かとギスギスしている面が話題に上がるけど、悪くないかもね。

その週末の昼、横浜1000Club、通称センクラでライブ。
建物ができた時、これはなんだろうと気になってはいた。どぅーんどぅーんと低音4つ打ちの電子音の中、夜な夜なパリピがテンション上げる異世界なのでは、と。

調べてみるとなるほど、ここもまた凄い箱だ。新宿ReNY、川崎Club Citta、そして横浜1000Club。デビュー2ヶ月しない内にこういう大きな箱で出演できるのって凄いな。経験者のたてみんさんや果南さんがいてこそのブッキング。0からじゃこうはいかないだろう。

新宿ReNYで、大きくて設備の整うライブハウスは感触を掴んだ。
手元にある変わり種レンズ、魚眼。こいつで一度狙ってみたい画角がある。
しかし撮影を最前列ど真ん中、"ドセン" で行うのはかなりの勇気がいる。
しかしこの大きなステージを魚眼で収めてみたい。
しかし周りから顰蹙を買うのではないか。

考えた末、ライブ中はできる限り端で撮影や応援を行い、ここぞと言うタイミングの時にドセンにそろっと進出、撮影して何事もなかったかのように戻る…ヒットアンドアウェイ戦法を採ることに。

1000Clubは想像通り新宿ReNYと近い感じ。幸か不幸か、出演時間は昼前、ステージが大きく、最前列は比較的空いている。照明、音響はクオリティ高く、撮影には最高の条件。今日は応援と撮影、両方ぶん回ることにする。

いつもどおり舞台下手側に立ち燎の出番に備える。曲は頭に入っている。振り付けもだいぶ覚えてきた。ある時はカメラを床に置き手拍子で拍子をとり、またある時はシャッターを切る。

観客が少ないという残念な状況も、ねこさんも果南さんも舞台から自分の姿がわかるようで、ほんの僅かな一瞬ではあったものの、間違いなく自分のレンズに視線が向いている瞬間を捉える。

そして終わりの曲の最後のサビからエンディング。準備していた魚眼レンズに変えて、当初から狙っていたドセンでシャッターを切る。

この1000Clubでは撮影としては最高の状況で、燎の二人に渡したOKショットは195枚、普段の4倍の数になった。

確かに今回はいい感じの写真が多かった。
しかし、自分の中ではいまいち心が晴れない。

ねこさんは、果南さんはライブ中ひたすらカメラを構えて写真を撮りまくる観客をどう思うだろうか。やはりライブである以上、ライブを観て、聴いて欲しいのではないか。他のお目当ての人たちは、燎のTシャツを着ていながらカメラを構え続けるオタクをどう見るのだろう。

自分が演者だったら、写真は嬉しいけどやはり自分のパフォーマンスに夢中になってほしい。ロックバンドのライブでは、皆が思い思いに声を出し、歌い、手を振り、リズムを体で刻む。一方でインディーズアイドルは、曲のパートパートで特定パターンの手拍子を叩く事がわかってきた。

それはお目当てでは無い演者さんの公演中でも皆がそれを、さもその曲を知っているかの様に揃える。主導するのは当然その演者さんのファンで、周りの人たちはそれに合わせて盛り上げるようだ。

ご時世で声出しが禁止なため、手拍子ばかりで正直勝手がわからない。しかし、燎の応援をリードするのは誰だろう?と考えているうちに、写真が撮れればいいのだろうか?と自分の趣味趣向だけをどうにかしようとしていた考えに疑念が生じ始める。

他のお目当てのオタクさんたちをも巻き込んで、色々な人がステージ上の二人に向かって応援を送っていたら、そんな眺めを届けられたら、燎の二人はどんな想いで客席を眺めるのだろうか。

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