フランス音楽への誘い vol.6 珠玉のクラリネット

管楽器大国でもあるフランスには、さまざまなタイプの素晴らしい作品があります。

メロディックなものからテクニカルなもの、現代に近付いてくると、音楽的ロジカルなもの、鬼気迫る音列技法、あるいはタケミツに通づるような、静寂の中での魂の叫び・一種の闘い…などの強いメッセージ性を持つものまで、たくさんの作品に溢れています。

今回はそんな中から、美しい優しさに満ちた作品をピックアップ。

奥行きと丸み、渋みを含んだクラリネットの佳品です。

シャルル=マリー・ヴィドール(1844-1937)の「序奏とロンド」。

日本でもご活躍されているコハーンさんの演奏です。

ヴィドールは、25歳から90歳近くまで(!!)、パリ市内の静閑な地域、サン=シュルピス教会のオルガニストとして働きました。

幼いころから神学にも通じ、オルガニストの父の影響も受けながら音楽を学び、フランクやサン=サーンスと共に、フランスの重要なオルガニスト・音楽家・教師として活躍しました。

この「序奏とロンド」は、甘美なメロディと品の良いアンサンブル構成で描かれていて、とても聴きやすい近代フランス作品になっています。


フランスの初期近代は、時代背景も重なって、ときおり「安っぽいサロン音楽」と解釈されやすいです。

でもそれはとても勿体ない見方で、そのように扱われる度、淋しい気持ちになってしまいます。

当時は、ショパンやリストの時代が落ち着いてワーグナーが台頭し、その勢いはヨーロッパ中に染み渡っていました。

ナチス・ドイツ勢力が刻々と浸透する時代にもなってきます。

フランス初期近代の作曲家、とくにフォーレやサン=サーンスは、その勢力を危惧し、自国の文化を守るために協会を立ち上げ、フランス文化の復興と発展に大きな力を注ぎました。

ワーグナーも聖書や伝説を題材としていましたが、フランスはフランスで、その文化に立ち戻り、独自の芸術を確立していきました。

決して耳障りになることなく、大袈裟になることなく、品と質を追求し、人間的である音楽をコンセプトに、新たな時代を切り拓く流れができたのです。

そんなサン=サーンスの美しく染み入るような作品がこちら。

クラリネットに、なぜかあまり良い作品が無い…と感じていたサン=サーンスが、愛を込めて綴ったクラリネット・ソナタです。

この作品は、私の大好きな室内楽作品のひとつです。4楽章の最後に冒頭が回顧されるスタイルも、人生を感じます。

3楽章のオルガン風なスタイルも素晴らしい。この深みと愛が、フランス音楽だと思います。

フィリップ・ゴーベール(1879-1941)の「ファンタジー」。

この方も先代のスタイルを継いだ、趣のある作風です。ゴーベールは指揮者やフルーティストとしても活躍しました。

ガブリエル・ピエルネ(1863-1937)の「カンツォネッタ」。憧れのピアニスト・タローさんの音源がありました。

この節回しはいかにもフランス的です。ピエルネはバレエ音楽も残していて、優美で上品なスタイルを貫いています。カンツォネッタは、今日に至るまで、多くのクラリネット奏者の愛奏曲です。


今回は聴きやすさ、その中でも優美なものにピントをあてました。

ほかにもフランス6人組やフランセのような洒脱なもの、ジョリヴェやデザンクロ、トマジのような現代的な格好良いものなど、数多くの名曲があります。




クラシック音楽を届け、伝え続けていくことが夢です。これまで頂いたものは人道支援寄付金(ADRA、UNICEF、日本赤十字社)に充てさせて頂きました。今後とも宜しくお願いします。 深貝理紗子 https://risakofukagai-official.jimdofree.com/