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10クラ 第56回 音と香りは夕暮れの大気に漂う

10分間のインターネット・ラジオ・クラシック【10クラ】
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第56回 音と香りは夕暮れの大気に漂う

2023年4月28日配信

収録曲
♫クロード・ドビュッシー:音と香りは夕暮れの大気に漂う(プレリュード集 第1巻より 第4曲)

オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」

演奏&MC:深貝理紗子(ピアニスト)


プログラムノート

 ドビュッシーの珠玉の名作の宝庫・プレリュード集は、どの楽曲も色彩と香りに満ちている。今回はそのなかでも特に詩的で妖艶な、そして極めてフランス的な一曲を取り上げたい。

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 今こそ茎の上で震え
 花々はおぼろに匂う 香炉のように
 音と香りは 黄昏の空に回る

 憂いのワルツ 物憂いめまい
 花々はおぼろに匂う 香炉のように
 ヴァイオリンはすすり泣く 思い悩む心のように

 やさしい心は 大きな暗い虚無を憎む
 大空は悲しく美しい 大祭壇のように
 
 落日は 固まるその血のなかに沈んだ
 優しい心は 大きな暗い虚無を憎み
 光り輝く過去の名残を全て集める
 
 落日は 固まるその血のなかに沈んだ…
 君の思い出は
 我が心に輝く 聖体盆のように
  -シャルル・ボードレール『夕べの調べ』

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 文学作品からのインスピレーションの多かったドビュッシーが好んだ詩人のひとりにボードレールがいる。今回の作品はこの詩から着想を得ていて、フランス語の美しさと音の美しさが見事に合致し、特有の世界観が創り出されている。
 Le ciel est triste et beau...(空は悲しく美しい)
フランスの詩で Le ciel と言われたら迷いなくランボーの目覚めるような le ciel(空)や la mer(海)の詩を思い浮かべるが、そのランボーと切り離せぬ存在ヴェルレーヌもまた triste(悲しく)et beau(そして美しい)言葉を綴る。そのような詩もまたドビュッシーに好まれて、さらに両方の根本を辿ればそれは復興すべくロココ絵画やローマ神話、シェイクスピアにまで行きつくのだから 面白い。何はともあれ、美しい音節から織りなされる美しい詩は、それ自体が音楽のようである。
 les sons et les parfums tournent dans l'air du soir...(音と香りは夕暮れの大気に漂う)
ドビュッシーがこの曲の最後に記したこの響きも美しい。フランス音楽の美の極みが包括されているかのよう。

クラシック音楽を届け、伝え続けていくことが夢です。これまで頂いたものは人道支援寄付金(ADRA、UNICEF、日本赤十字社)に充てさせて頂きました。今後とも宜しくお願いします。 深貝理紗子 https://risakofukagai-official.jimdofree.com/