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10クラ 第43回 秋の花、郷愁の象徴

10分間のインターネット・ラジオ・クラシック【10クラ】
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第43回 秋の花、郷愁の象徴

2022年10月14日配信

収録曲
♫クロード・ドビュッシー:ヒースの茂る荒地(前奏曲集 第2巻より 第5曲)

オープニング…サティ:ジュ・トゥ・ヴ
エンディング…ラヴェル:『ソナチネ』より 第2楽章「メヌエット」

演奏&MC:深貝理紗子(ピアニスト)


プログラムノート

 優しい紫色のその花は、どこか「ひとり」を貫いて、独特な静けさを心に広げてくるようだ。花言葉は「孤独」―湿地の荒野に楚々として咲く美しさを見事に表している。群れているものにはいまひとつ美しさを感じない。「私は私らしくありたい」、このような花言葉も持っているそうだ。なんて良い、そして深い花言葉だろう。
 ヒースの茂る物語と言えば、原産地イギリスの大巨匠シェイクスピアだろう。『マクベス』の冒頭、魔女たちは語る。「ヒースの茂った地でマクベスに会うのよ」。そしてマクベスは魔女と妻の言葉に煽られて、王に手をかける。それが破滅の道とは考える間もなく。彼が悟った時には既に遅い。「人生は歩き回る影。憐れな役者」―
 『リア王』でもまた、ヒースの荒野で人間の憐れな姿が描かれる。壮絶な人間の悲惨なドラマ。イギリスの名作『嵐が丘』もまたヒースの丘で、非常に暴力的でドロドロとした人間のドラマを繰り広げている。
 そこから来たのだろうか、ヒースには「裏切り」という花言葉もある。凄まじい欲や愛憎の渦巻く人間と、静かに美しく咲くヒースの対比は何とも形容しがたい。
 ドビュッシーは文学者との関わりが非常に濃く、読書量も相当なものだったのと見受けられる。作品ひとつひとつの濃厚さには、あらゆる文学的センス、絵画や小物の繊細さを見極める眼、自身の豊富な(良いか悪いかは別として)人生経験が大いにはたらいているように思う。シェイクスピアだって当然頭に入っていただろう。そんな彼の描く「ヒース」は、どこまでも清涼感に満ちている。風に吹かれて揺らめく様子、雲が途切れて光の射す様子、人間が足を踏み入れようが踏み入れまいがお構いなく自然体に咲き誇る様子…
 ドビュッシーは自然の美を描写した。これは後のメシアンまで繋がることだが、「自然の音」にこそ音楽が在ると言っていた。これはつまり、「憐れなる役者」である人間の成すことなど小さなものだということだろう。程よい脱力はその諦観から来るものか。「孤独」の隣に神がいる―聖書にも書いてあった。

クラシック音楽を届け、伝え続けていくことが夢です。これまで頂いたものは人道支援寄付金(ADRA、UNICEF、日本赤十字社)に充てさせて頂きました。今後とも宜しくお願いします。 深貝理紗子 https://risakofukagai-official.jimdofree.com/