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ヨハン・シュトラウス 喜歌劇「こうもり」

オペラ劇場という異次元の空間

舞台芸術の王様と言われているオペラ。すべての舞台芸術がぎっしりとつまっている贅沢な芸術。いや、芸術などという呼び方はやめて、娯楽、エンタテインメントと呼ぶべきでしょう。

昔仕事でウィーンへ行き、ウィーン国立歌劇場やフォルクスオパーでオペラ鑑賞をした際に感じたワクワク感は、言葉では言い表すことのできない独特なものでした。

まず、劇場の建造物としての美しさ。外装はもちろん、内装もまさに異空間。日本は同じ空間はありません(もっとも、日本には別の独自の演芸場があり、これは海外の人々にとって興味深いものです)。

そして、そこに行き交う観客たち。みんな本当に楽しそうで、心から楽しもうとしています。変な例えですが、ある種「気迫」のようなものが伝わります。オーケストラや出演の歌手達の演技の素晴らしさや舞台装置、美術の美しさはいうまでもありません。異次元の空間とはこのことか、と感動したことを今でも思い出します

「こうもり」をふたたび

とりわけ最も印象に残ったのが、オペレッタ(喜歌劇)「こうもり」。ヨハン・シュトラウス作の有名な作品です。ウィーンでは年末の公演が多いようです。私も1988年末に、ウィーン国立歌劇場で見ることができたのですが、オペラがこれほど楽しいものだと、思い知らされたのが、この作品でした。

あの時の感動をもう一度。日本にいて、あの経験と全く同じ体験は無理としても、映像でその感動をよみがえらせることはできるかも。ということで色々物色していたら格好のDVDを見つけました。カルロス・クライバー指揮、バイエルン国立歌劇場で収録された喜歌劇「こうもり」です。

指揮者クライバー本領発揮の分野オペラですし、期待はふくらみます。CD版もありますが、今回は映像を見たかったため、DVDを選びました。

最高でした!!

まるでバイエルン国立歌劇場の観客席で、幕が上がるまでの時間をワクワクしながら待っているような気持ちを味わえたのです。

オペラの醍醐味は、幕が開く前にある

幕はまだ閉じたままのステージ前のオーケストラピットに団員が入ってくる。オーケストラの団員達はそれぞれ自分の音を確かめるように、音階を鳴らしている。

会場の明かりが次第に暗くなる。団員たちも音を止める。

指揮者が拍手を浴び登場。間髪入れずタクトをあげ、オーケストラの演奏は始まる。

これから始まるオペラに登場する音楽のエキスがぎっしりつまっている「序曲」です。公演を何度も見たことのある人は、そのメロディから、かつて見た場面を思い浮かべるでしょう。初めての人は、どんな場面になるのかを想像する。観客それぞれが思い思いのイメージをふくらませ、幕が開く、、、、。幕が開く前までで、これだけ楽しめる。ワクワク。

映像で見られて良かった

DVDですから、カメラアングルは最高。客席では見られない歌手の表情がはっきりと見られます。ドイツ語も会場では全く理解できませんがDVDは字幕があるので、内容がわかります

現地のオペラ好きの方とはハンデがありますよね、日本人は。なにしろ言葉がわかりません。私の持論ですが、オペラはまず言語が理解できる事が必須条件です。あらすじを知ることはできます。対訳をあらかじめ読めば、雰囲気はわかるでしょう。でも映画もそうですが、その台詞を発した時に、即座に言葉の意味がわからなければ作品を真に理解していることにはなりません。

そのハンデがDVDでは解消できます。

音楽だけを楽しむにはCDで十分ですが、映像で見るのは別の意味で、おもしろいですよ。本当は、内容を頭にたたき込んで、実際のステージを見るのが最高ですが…。

第三幕の酔っぱらい看守の見事な演技

ウィーン国立歌劇場でもそうでしたが、私が喜歌劇「こうもり」に惹かれたのは、実は音楽や歌だけではないんです。

このオペラ、ストーリーが実に大人向け。しかも神話などを題材にしているわけではなく、上流階級ではあるものの、夫婦愛、浮気など、とても身近なテーマなので、親しみやすいのです。

詳しく書くと、楽しみが減りますから書きませんが、第三幕の舞台は、なんと監獄の管理人室。シチュエーションも特異ですが、登場人物の一人である看守がおもしろい。酔っぱらいで、元旦の朝だというけれど、酒の入った小瓶を懐から出して、旨そうに飲みながら、色々と語る台詞が本当に面白いんです。

この看守役、歌は全くなく、台詞だけの演技のみです。役者の力量だけでステージで個性を発揮しなければなりません。

ウィーン国立歌劇場では、指揮者に向かって、「おい指揮者よ!調子に乗るんじゃないぞ!」とおそらくアドリブで語り、客席から絶大な拍手を浴びていた酔っぱらい看守が、強烈に今も印象に残っています。

DVD版の看守役も味があり、とってもいいです。私は彼の演技が見られただけで大満足です。

オペラを語るにしては、音楽以外の事を書いてしまいましたが、誰もが楽しめるオペレッタ「こうもり」は、最高のエンタテインメントではないでしょうか?


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