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ポール・サイモン「アメリカの歌」が語るもの

ポール・サイモンがソロ活動後2作目のアルバム「ひとりごと」"There Goes Rymin' Simon"に収録された「アメリカの歌」"American Tune"は聞くところによれば米国の第二国歌に扱われる作品のようです。それほどアメリカ国民に愛されているなら、さぞかし「米国が希望に満ちた勇敢で優しく自由な国」を歌っていると予想するでしょう?

しかしポール・サイモンというアーチストをよく知るファンは「そんなはずはない」とつぶやくのです。彼は一筋縄ではいかない詩を書くから、注意深く観察しないと歌の意味を正反対に理解してしまうことが少なくありません。

「アメリカの歌」は自由と平和を象徴するはずのアメリカという国の過去と未来を思う歌なのです。「思う」の意味は、決して前向きではなく、なんと表現しましょうか、彷徨い、思い悩む気持ちでしょうか。

この歌が発表されたのは1973年。当然時の社会情勢と密接なつながりがあります。当時の話題といえばベトナム戦争、アポロ計画、キューバ問題などでしょうか。

一人称の視点で語るのは過去におこした過ちや迷い。次はうちのめされた魂やうち砕かれた夢。彼は心底疲れていて少しあきらめぎみの様子ですが、そこから逃げようとはしていない。理想には必ず試練が立ちはだかると自ら言いきかせています。

彼は夢を見ます。死ぬ夢。そして空を飛ぶ夢。空を飛んだ時見えたのは自由の女神が航海にでるという不思議な光景でした。SF映画のような変なシーンですが、その奥に潜むメッセージは果たしてなんでしょうか?

当のアメリカの人々はこの歌をどういうふうに受け止めているのか、非常に興味深いです。ただ、これだけはいえるでしょう。ポール・サイモンは米国人。

たとえ少し皮肉めいたメッセージでも米国人たちが受け入れられる心の余地がある理由は、やはりサイモン自身が心底米国を愛していることが理解できるからでしょう。

しかし彼は今度のこと(2003年のイラク攻撃)をどう思っているんでしょうか?

※この文章は20年前に書いたものです。

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