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ピンクフロイド Pink Floyd 「原子心母」Atom Mother Heart

クラシックファンの多くは、目を疑うというか、発行人は気が狂ったのかと思うだろう。本来クラシック音楽を語るはずのこのメールマガジンで、なぜロックの作品が出てくるのか、と。

だが、私の選ぶ曲にジャンルの壁は全くないし、いい曲だと感じ、読者に伝えたいものだけについて書いている。だから本気だ(前号でピアノ初心者の私がベートーヴェンの作品を弾くと宣言したのも本気であり、きっと近いうちに、日本の誇る最高のエンタテインメント「演歌」について語るだろう)。

★解説
この前文は、メールマガジン「クラシック音楽夜話」Op.60=2002年10月24日(木)掲載したものです。クラシックを語るはずのメールマガジンでいきなりロックが登場したので戸惑いそうな読者への言い訳でした。


この作品は1970年に発表された。ロック界の金字塔とか、先日入手したアナログLPレコードには、「ピンク・フロイドの道はプログレシッブ・ロックの道なり!」という記述もある。進歩的なロックという意味だろうか?

奇妙な作品だ。録音のマジックで色々な音が入っている。ピンク・フロイドの演奏に、オーケストラ、そしてコーラスなどが加わる不思議なサウンド。それに、電子的効果音や、動物の鳴き声、モーターバイク、爆発音などを加え、いわゆる前衛的な要素もある。でも実は奇妙でも何でもないのだ。

なぜなら、基本は悲しげなテーマメロディにあり、そのメロディが、さまざまな色合いで聞こえてくる。ここに着目したい。それはブラスセクション、スチールギター、コーラス、エレクトリックギターのソロ、オーケストラ、枚挙にいとまがない音が主役を演ずるのである。これはクラシック音楽作品と大きな共通点がある。

モーツァルトやベートーベンに限らずクラシック音楽の作曲家たちは、ひとつのメロディを主題としてさまざまな変奏やさまざまな楽器でその色合いを表現してきた。そうした音楽を何百年経過した今、私たちは聞いている、感動しながら。
ドラム、エレクトリックギター、シンセサイザー(当時はこういう名称ではなかったけれど)などクラシックには縁のない楽器である。それがオーケストラやコーラスと見事に調和している。本当だ。

特にシンセサイザー、ベース、ドラムのシンプルな伴奏にのって奏でられるチェロの主題が泣かせる。

a. 父の叫び Father's Shout
b. ミルクたっぷりの乳房 Breast Milky
c. マザー・フォア Mother Fore
d. むかつくばかりのこやし Funky Dung
e. 喉に気をつけて Mind Your Throats Please
f. 再現 Remergence

曲に上記のような題名はついている。興味をそそられるタイトルではないか。でも聞く特に意識する必要はない、ただ、音楽だけ聞けばいい。それだけで、充分心に響いてくるはずだ。

途中コーラスが主役になる箇所がある。ここは声という楽器の素晴らしさを再確認する上で重要だ。コーラス部分の終わり部分は、まるで日本民謡を思わせる。思わずニヤリとした。ロック調のドラムにのった日本民謡だ。すごい!そして、その後のギターソロも圧巻だ。バックのキーボードもいい。この後に真性日本民謡のような演奏が続く。

音楽には、心なごませる作品、心を奮い立たせる作品、泣かせる作品、笑わせる作品、千差万別ある。「原子心母」はそうした千差万別の要素の多くを感じさせてくれる希有の作品である。

クラシックファンも一度おためし下さい。
牛が主役のジャケットになぜか惹かれる。↓

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