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ベートーヴェン 交響曲第4番 Op.60 私の熱はしばらく冷めそうにない、クライバーの名演奏 会場にいるような、臨場感

私は昔、あるLPレコードを購入しました。
カルロス・クライバー指揮、国立バイエルン管弦楽団演奏、ベートーヴェン「交響曲第4番」です。赤色のジャケットが目印です

購入の動機は、単に、ジャケットが印象的だった、ただそれだけです。CDやLPレコードを、ジャケットのデザインだけで買う(いわゆるジャケ買い)というのも間抜けな話かもしれませんが、私はそういう傾向があることをこの頃実感しました。

この演奏が名演であることは、購入したお店中古CD店「アンサンブル」ご主人との会話でわかりました。後に読んだ音楽関係の書物や、Yahooのレビューでも絶賛の記載がありました。

しかし、たとえ世間が名盤としても、自分の耳で確かめなければ納得しないのが私の基本。ということで、このアナログレコードじっくり聞いてみました。

見事にやられ、熱にうなされています。正直いって最初、一、二度は、すごい、という印象はもてませんでした。でも、聞けば聞くほど、胸の底から燃え上がるものが、、、。焚き火をする時、最初の火は、本当に小さな火でも、それが次第に燃え大きな炎となります。この交響曲と、この演奏は、今や私の中でメラメラと燃えています。

ベートーヴェンの交響曲の中で、第4番は、一般的に地味な存在なことは誰もが認めるところでしょう。1番、2番などもその部類です。たぶん一度も聞いたことがない方も多いと思います。私も1番、2番のCDは持っているもののこれまでまともに聞いたことはありません。モーツァルトに似ているな、という印象を覚えたくらいで。でも、今回クライバー指揮の四番を聞いて、「地味な」という印象は完全に吹っ飛びました!それに、全曲に漂う明るさ、これは何故だろう?その理由がわかりました。

ベートーヴェンはこの時期婚約しており、精神的にも至福の時代だったというのです。婚約期間4年で、結局結婚は破談となったらしいのですが、交響曲第3番(Op.55)以後、ピアノソナタ第23番「熱情」(Op.57)、ピアノ協奏曲第4番(OP.58)、第5番「皇帝」(Op.73)までの中期充実期を象徴するように、明るく、はつらつとした雰囲気の作品に仕上がっているような気がします。

交響曲第四番の雰囲気を簡単に説明しますと、第一楽章冒頭の不気味なアダージョは、とっても「怖い」、これから何が始まるのか、はらはらさせられます。でも、アレグロに入ってからの躍動感。これはスゴイ(思わずカタカナで表記)!

第二楽章のゆったりとした曲想。聞いていて自分の人生の一こまが頭をよぎります。美しいメロディと、各楽器による変奏のあざやかさ。(よく聞くと、このメインメロディは、第一楽章でコワイと表現した前半アダージョの弦楽器によるメロディの変形でした)第三楽章の緩急自在の雄叫び、そして第四楽章のスピード感。

こうして説明を書くこと自体が邪道ともいえるほどの、素晴らしい演奏。ちなみに私は、クライバーの演奏以外に、ヴァント指揮北ドイツ放送交響楽団と、フェレンチク指揮ハンガリー・フィルハーモニー管弦楽団の演奏を聞き比べました。どちらも、素晴らしい演奏です。特にヴァントの方は、実に洗練されている美しい演奏で、聞いていて爽やかな印象をもちました。

それに比べ、クライバーとバイエルン国立管弦楽団の演奏は、ねちっこいというか、色っぽいというか、とにかく躍動感が満ちあふれているんです。それは恐らくスピード感の溢れたテンポ、弦と管のバランス、力強い打楽器、強弱の幅広さなど、クライバーのこの曲にかける細部のこだわりからくるものでしょう。

とにかく、聞けば聞くほど、力がみなぎり、明日への活力をくれる、そんな演奏です。加えて、CDでは演奏終了後の「ブラボー」が3分間に渡り収録されています。もともとこの録音は、演奏会のライブですので、演奏以外に、聴衆の咳払いなどが聞こえ、耳障りと感じる方もいると思います。でも、逆にそれが、あたかも演奏会のその会場に自分もいて、演奏を聞いているような臨場感を感じさせてくれます。1983年のミュンヘン国立劇場に私たちを連れて行ってくれるんです。

「ブラボー」は演奏終了後すぐに叫ばれるのではありません。最後の音から数秒後、ためらうように、男性の声で叫ばれます(これはLPレコードでわかることで、CDでは残念ながら、編集されて、曲終了後すぐにブラボーの声がかかります)。その後、聴衆が次々と、叫びます。この様子が、CD版でも充分感じ取れられます。思わず私も拍手しそうになりましたね。極上の交響曲の発見、極上の演奏、そして生演奏の臨場感、三拍子揃った逸品。私の熱はしばらくさめそうにもありません。

C-100841-B
ORFEO D'OR
1984 ORFEO Music GmbH
ベートーヴェン「交響曲第4番」
カルロス・クライバー 指揮
バイエルン国立歌劇場管弦楽団 (Bayerisches Staatsorcheter)
※文中ではそのまま訳してバイエルン国立管弦楽団としています

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上のSpotifyのウィンドウ内再生ボタンをクリックすると、各楽章を30秒聴けます。各楽章のさわりですが、臨場感溢れていて雰囲気を味わうことができるでしょう。しかも5番目にちゃんと拍手喝采が収録されているのも嬉しいですね。
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