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ブラームス アルト、ヴィオラ、ピアノのための「2つの歌」 作品91

アルトの声とヴィオラの音色に感動する

この間持ち帰った1枚のCDに魅せられてしまいました。
このCDは、ハーゲン弦楽四重奏団のヴィオラ奏者ヴェロニカ・ハーゲン、パウル・グルダのピアノ、そしてアルト歌手イリス・ヴェルミヨンによる演奏で、ブラームスの2曲のヴィオラ・ソナタと「2つの歌」が入っています。
「2つの歌」の2曲目「聖なる子守歌」を聞きたくて持ってきたのです。

ところが………。

「2つの歌」の1曲目「静められた憧れ」が始まったとたん私の思考能力はストップしてしまいました。チェロの音色とも錯覚しそうな豊かな低音から始まるヴィオラの音色。柔らかで暖かく、心の琴線をくすぐるとでもいいましょうか。低音のメロディは、切れ目なしに今度はヴァイオリンの音色にも似た高音域へ移るのです。それがまた美しくて。ため息が出そうなくらい満ち足りた思いがここまでの前奏だけで沸き上がります。決して大袈裟な話ではなく、私、今日も聞いていて危うく涙をこぼしそうになりました。こんな豊かで感動的な音はどこから生まれるのか? 本当に不思議な話です。ずっとずっと、ここ3週間も毎日この曲を聞き涙をこらえるのに苦労しています。電車の中で中年オジサンが涙を流しながら音楽を聞いている光景は滑稽ですし…。

さらに、ヴェルミヨンの歌声。本当に「参った!」という感じです。ドイツ系アルトの歌声というと豊かではあるけれど、歌手によっては響きがこもりぎみに聞こえます。しかし、ヴェルミヨンは全くそんな印象はなく、ぐいぐい前に出てきます。クリアです。そして、魅力的なんですね。ぞくぞくします。


「2つの歌」こそがメイン


このCD、本来のメインはブラームスの「ヴィオラ・ソナタ第1番」と「第2番」。「2つの歌」がカップリングされているのは、同じヴィオラ入りの作品ということで、ある意味オマケかもしれない。でも、オマケはオマケではなく、むしろこの2曲こそがメインだと、私は思います。

ブラームスの曲の素晴らしさはもちろんですが、演奏するヴィオラ奏者、そしてアルト歌手、この二人の女性にたちまち魅せられ、虜にさせられました。毎日彼女たちの演奏を聞きたい。曲を聞きたいだけでなく、彼女たちの音と声を聞きたいのです。これが恋でなくて何でしょう。

「静められた憧れ」は美しい夕映えを見ながら、心の葛藤を考える主人公が、「生(=命)」への遙かな思いを歌うものです。抽象的内容ですが、逆に聞き手のイマジネーションを駆り立て、美しく豊かな音楽と共に、まさに心清められる気がします。

「聖なる子守歌」は、有名なクリスマスキャロルのメロディをヴィオラに演じさせながら、ブラームス独特のメロディで風に揺れる木々のざわめきに対し、眠る子供を起こさないでほしい、と願う母親の気持ち歌う歌です。眠る子供は生まれたばかりのキリスト、木々のざわめきはこの世の雑事を象徴しています。
曲の背景はともかく、母のあふれる愛情が注がれる子供、という状況をブラームスは見事に曲で表現しています。人間だれもが持つ心を表現するため、ヴィオラとアルトを起用したブラームスの意図は見事にフィットし、どんな音楽よりも「聖なる子守歌」は存在感があります。


【私の聞いたCD】
【収録曲】
ヴィオラ・ソナタ第一番 ヘ短調 作品120の1
Sonate für Viola und Klavier f-moll op.120 No.1
ヴィオラ・ソナタ第二番 変ホ長調 作品120の2
Sonate für Viola und Klavier f-moll op.120 No.2
2つの歌 作品91~アルト独唱、ヴィオラとピアノのための
Zwei Gesänge Op.91
静められた憧れ(リュッケルト詩)Gestillte Schnsuch
宗教的な子守歌(スペインの詩、ガイベルによる)Geistelisches Wiegenlied

【演奏】
イリス・ヴェルミヨン(アルト)2つの歌
ヴェロニカ・ハーゲン(ヴィオラ)
パウル・グルダ(ピアノ)


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