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巌流島の決戦~クナッパーツブッシュ VS バックハウス

「クラシック音楽夜話」を読んで下さっている皆様はご承知の通り、私はベートーヴェン弾きのピアニストとしてバックハウスを最も敬愛しています。彼の演奏は時には「そっけない」という感想も聞きます。でも、私はそのそっけなさの中にベートーヴェンの音楽に対する静かな熱のようなものを感じ、虜にさせられています。

色々なピアニストの演奏を聞きました。昔の人や現代のピアニストも含めて。しかし、いまだバックハウスを超える(私にとってという意味ですが、、)ピアニストにお目にかかったことはありません。こうなれば公平な意見というより、盲目的ファンとでもいってもらったほうが、私自身気が楽です。(この感想をAmazonのレビューに書いたところ、「バックハウスより他に素晴らしいピアニストがいる。勉強せよ!」とご指導をいただいたことがあります。笑)

さてそのバックハウスの演奏はCDやアナログレコードで聴けるだけと諦めていたところ、偶然映像を手に入れたのです。

1962年、テアター・アン・デア・ヴィーンでのウィーンフィルとクナッパーツブッシュ指揮の演奏会です。演目はベートーヴェン「ピアノ協奏曲第四番」。DVDで出ているのは知っていましたが、まさかこの土地(2000年代初頭の長野市)で、あの品揃えの悪い総合書店のCD売り場で出会うとは思ってもみませんでした。

これ貴重な映像で、本当に感激です。思ったより小柄なバックハウス氏と、指揮者クナッパーツブッシュ(意外に長身)が登場します。バックハウス氏だけがステージ前に出て(ピアノがあるから当然か?)深々とおじぎ。クナッパーツブッシュ氏は素知らぬ顔ですぐにオーケストラの方を向きます。この対照的行動が感慨深いですな。

コンサートだけど、巌流島の決戦

さて演奏ですが、これはほとんど巌流島の決戦のようなもの。クナッパーツブッシュ氏の指揮は晩年かなりテンポが遅くなったと聞きます。この映像でも要所要所でそんなところがあります。しかし70歳半ばのバックハウス氏ですが年齢なんぞ関係ないほどのスリリングな指さばきでピアノを弾きます。ピアノソロに比べ、管弦楽部分の極端なテンポ、つまり遅いのですが、その違い。相容れないテンポがミックスし、何ともいえない味が出ているんです。いや、面白い!

ウィーンフィルのメンバーも、あのボスコフスキー氏や、蓮に構えるヴェルナー・トリップ氏(フルート奏者)が見られるのも楽しい。

音質はそう良くありませんが、バックハウス氏の演奏の見事さが充分わかる映像。このDVDを見て、私はますます彼のファンになりました。また、そっけないクナッパーツブッシュの指揮も注目です。こういう頑固そうなオヤジ(失礼!)、好きですね。音楽家でも武士(西洋だから騎士?)を見るのは、やはりワクワクします。


★私が見たDVD
TDBAー0016
クナッパーツブッシュ/ウィーン・フィル
ウィーン芸術週間1962
ベートーヴェン レオノーレ序曲第三番
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第四番
リヒャルト・ワーグナー 「トリスタンとイゾルデ」より「前奏曲」「愛の死」
ピアノ独奏 ヴィルヘルム・バックハウス
ソプラノ独唱 ビツギット・ニルソン
※現在入手困難。

↑AppleMusicの音源(No.1-3)は、たぶん、DVDと同じものと思われます。

上のSpotifyは、1952と1956年の録音ですので、今回ご紹介した音源とは違いますが、バックハウスとクナッパーツブッシュの別の共演をお楽しみいただけます。

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