見出し画像

『リアム・ギャラガー:ネブワース22』を観て

Oasis解散から13年。中途半端な数字だが、リアム・ギャラガーにとってその13年は特別な時間だったことが本作『リアム・ギャラガー:ネブワース22』(以下『ネブワース22』)、そして『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』(2020年、以下『アズ・イット・ワズ』)を観ればだろう。しかし、ソロアーティストとしてのリアムが最も輝いている瞬間を見たいのなら、ぜひ『ネブワース22』をお薦めしたい。

本作は、2022年6月に開催された英ネブワース・パーク公演の模様をはじめ、同公演に挑むリアム自身の姿やバンドメンバー、マネージャーらの声、そして様々な世代の”リアム・ギャラガー”ファンの物語が収められている。

1996年、リアムはOasisのボーカリストとしてネブワースのステージに立ち、2日間で25万人超を熱狂させた。そんなOasisの栄光の瞬間を捉えた映像作品『オアシス:ネブワース1996』(2021年)も記憶に新しい中でアナウンスされたリアムのネブワース公演は、当初1日のみ開催予定であった。それは、本作の中でマネージャーらも語っていたように、いかにソロとして成功を掴んだリアムとて8万人規模の集客が可能か、半ば”無謀”な賭けでもあったのだ。だが、蓋を開けてみれば発売と同時にチケットは即完。Oasis同様2日間での開催となった。

『ネブワース22』には、公演直前にリリースされたソロ3rdアルバム『C'mon You Know』から「Everything's Electric」「C'mon You Know」、さらに「Wall of Glass」「Shockwave」「The River」といったソロナンバーを広大な会場に響き渡らせるリアムが映し出され、ライブを追体験することができる。事前アナウンスの通り、実際には披露されていた「Rock 'n' Roll Star」「Stand by Me」といったOasis楽曲のパフォーマンス映像を見ることはできなかったが、結果ソロ以降で初めてリアムの存在に触れたティーンや新規リスナーに向けて刺さりやすい内容になっている。もちろん、Oasisを原体験した往年のファンも間違いなく興奮できる作品だ。

なお、劇場公開限定で本編とは別にネブワース公演から「Better Days」「Diamond in the Dark」のライブパフォーマンスが上映された。個人的にジョン・スクワイヤがゲスト参加した「Champagne Supernova」だけでも上映してほしかったが、やはり”ノエル・ギャラガーの許諾”という壁は果てしなく高いようだ(ジョンは1996年のネブワース公演でも同楽曲に参加)。

リアムが過去と現在、2つの時間軸におけるネブワースへの思いを吐露するシーンも胸熱だが、個人的に本作において新鮮な部分は別にある。それは若いリスナーやアーティストたちがリアムの存在を語る場面だ。

ネブワース公演でサポートを務めたGoat GirlやFat White Familyといった新鋭、また96年のネブワース以降に生まれ、Oasis時代を知らないリスナーが発する”ロックスター”リアムへの想いも胸に刺さる。彼/彼女たちはOasisで数億人をシンガロングさせたリアムではなく、愛するバンドが分解し、幾重もの失敗と挫折に打ちのめされて成功を手にしたリアムに憧れを抱いているのだ。それをリアムも理解しているのか、もう富や名声ではなく”労働者階級出身”として、例え目の前のオーディエンスが数人でもロックンロールを歌い続ける意思こそが自らを動かしていると口にする。

すでに本作の劇場公開は終了しているが、おそらく近いうちフィジカルリリースされるだろう。2022年、ネブワースで自ら経験した最大の成功の瞬間を上書きしたリアム、過去の記憶と記録を新たに更新する瞬間はまたすぐにやってくるはずだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?