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コロナと5類と規制緩和と。最近のライブシーン、何か変じゃない?

はじめに

コロナの扱いが2類から5類に変わり、3年かけて少しずつ前進してきたロックシーンの規制緩和が一気に進んだ。今や声出しは当然だし、ダイブモッシュも論争が再燃するぐらいには帰ってきた。ライブ好きとしては嬉しいものだ。

一方で、どうやらビバラを中心に、規制緩和を進めたGWの大型フェスでどでかいクラスターが多発したようで、TLにコロナ感染を報告するツイートや、ライブ会場の感染対策を不安に思うツイートが大量に流れているのもまた事実。
それで、感染した人の発言を見て気になったことがあるから、リスクとコロナの話を書いてみる。状況把握を間違えて感染した人多すぎんか・・・

要点は4つ。
①リスクや安全性は自然現象や人の行為が決めるのではなく、個人や社会の許容度によって決まる
②感染症法の5類は「たいしたことない病気」という扱いではないし、5類になったからコロナが弱くなるわけでもない。
③コロナは条件付きで「死に至る病」ではなくなったという意味でリスクが減ったが、感染力がクッソ強くて、それなりに強い症状が出る病気なのは変わっていない。
④「コロナのリスク」と「一般論でのコロナの扱い」と「ライブの環境でのコロナのリスク」を混同・無視してる人多すぎない?
詳しく言語化してみる。

そもそも「リスク」とは何か

一つ目、リスクは現象そのものではなく、許容度によって決まる
例えば、パラパラと雨が降ってもそれを危ないとは思わない。
それなりに強い台風がやってきても、「風が強いね~」程度で終わる。
けど、風の強さが家の耐久力(許容範囲)を超えたら、災害が生じる。
川やダムに貯められる量を超える雨が降ったら、川が氾濫して大きな災害が生じる。
川が氾濫しても、高床で実質2階だけの家に住んでいたら、その人にとっては大きなリスクにならない。
つまりは、リスクになる現象があって、それが直接的な危険になるのか、対処すれば問題ないのか、そもそも危険ではないのかは、現象の強さと、人の受け方によって決まる。

感染症のリスクも同じようなもので、感染力、致死率、その他諸々の特に命と医療に関る文脈で危険性が考えられる。
初期のコロナ~デルタ株までは、ワクチンが無い、未知の病気に対する治療法が分からないままに医療を行うしかなかった、等の理由から非常に危険な病気だった。だから社会や経済を止めてでも、感染を防ごうとした。

それが今やワクチンの普及、悪化させない治療法の確立、オミクロン株への質の変化によって、「健康な人の」重症化・死亡リスクは劇的に低下した。ちゃんとしたデータを見るとワクチン(と感染による集団免疫)の効果は本当にすごい。ちゃんと治療を受けられる(≒医療崩壊していない:ココ重要)前提での死亡率は0.1%ぐらいまで下がったと聞く。
それでも例外的な犠牲者は出てしまうだろうけど、全員で全員を守るための対策をしないといけないほどリスクのある病気ではなくなった(と、少なくとも判断できるようになった)。だから2類から5類に扱いが変わった。それが最近の話。

「5類になる」は「コロナは危険でない」という意味ではない。

じゃあ5類になったら何が変わるの?って言うと、一番大きいのは規制をかける法的根拠がなくなること。
緊急事態宣言とか、蔓延防止とか、時短営業とか、(人権制限のあり方をちゃんと検証してほしいけど形上は)法律に則って行われていた感染対策を行えなくなる。「マスクは個人の自由」とか、色んなガイドラインが大幅に緩和されるのも、「コロナは怖い病気じゃない」というよりは、こっちの影響の方が大きい。多分。
そもそも5類の他の病気も、完全に無視していいような代物じゃないしね。

つまりは、5類になったというのは「コロナが大したことなくなった」わけではなくて、「コロナを受け入れる体制が整い始めた」というニュアンスの方が強い。実体としては、「規制を緩和する代わりに自衛してね」に近い。
コロナの感染力の強さは顕在だし、「軽症」でも40度近い高熱が出て激しい喉の痛みや倦怠感に苦しめられる。その病気の質が変わったわけではない。
症状が出ない人もいるけど、出る場合の「軽症」のイメージが実体と違うことは、再三問題視され続けてきた。

コロナを研究しながら治療にあたってきた先生は、こういうことを講演で話していた。

・日本のコロナ対策はそれなりに成功したから、欧米よりも集団免疫に到達するのが遅い。だから、「ヨーロッパではこうだから」で判断するのは時期尚早
高齢者や基礎疾患のある人、ワクチンを打ったことがない人からしたら、コロナの危険性は最初からあまり変わっていない
・だから、リスクの高い場所/行動をする際の自衛、リスクの高い人自身の自衛、彼等を守るための手段としてマスクをつけることは今でもものすごく重要
・「ウィズコロナ」になっただけで、コロナ禍が終わりを迎えたわけではない。緩める所は緩めながらも、何にリスクがあるのかを分かって感染対策することはまだまだ大事だし、コロナ前の生活に戻し始めていいというのは、あくまでも基本的な感染対策を前提とする場合。

こういうリスクコミュニケーションこそが危機管理では大事なのに、日本は政府もマスコミも(時には企業上層部も)これが本当に弱い。
「感染対策はもういらない」「コロナは終わった」という間違ったメッセージとして伝わることは何よりも避けるべきこと
WHOが緊急事態宣言の解除を発表した時にも似たようなことを言ってたけど、今の日本はその意味でコロナ禍が始まってから一番「感染リスクが」高い危険な状況になっているように感じる

規制緩和と感染対策・安全管理を間違えたライブシーンになってない?

と、ここまでがコロナと5類とリスクの話。
じゃあライブシーンはどうなの?ってことを考えたいのだけど、個人的にはマスクを外しての声出し、ダイブはまだ早いと思う
ビバラとかでコロナにかかった/大丈夫だったって人のツイートを見ていると、マスクの有無が明暗を分けているのは分析するまでもなく明らか。「熱気でマスクしてたらヤバかった」みたいな話も沢山見たけど、それは別ベクトルの運営の安全管理の問題。

5類になって規制の根拠がなくなったわけだから、元のスタイルに戻そう!ってこと自体を否定したいわけではないし、クラスターが発生した特定のイベントを攻める気持ちは無い。音楽好きとしてはその姿勢は大歓迎。
ただ、事実として、規制緩和を一気に進めたことと、恐らくコロナのリスクや5類の意味を分かってない人が多いことが重なった結果、ライブ会場の感染リスクがとんでもなく跳ねあがってしまっているのが現状だと思う。それでライブ開催・参加の障壁が上がったら業界としても元も子もないだろうし。「ライブは安全じゃない」とはもう言いたくない。
今まで慎重に、一歩ずつ進んで、安全を確認出来てから次の緩和を進めてきたのは何だったんだって、コロナの法的扱いの変化とは関係なく強く思う。

そして、声出しだけがOKだったここ数か月のライブでは、ライブでコロナにかかった(かも)って話があっても、一気に特大クラスターになったって事例は知る限りだと見かけなかった。
じゃあ何が大きく変わったのかを考えると、マスクとモッシュダイブ。
個人的にはモッシュは衛生面にそんな影響ない気がするけど、マスクとダイブはコロナとか関係なく衛生面のリスクを大きく変える行為。
法的根拠がないからマスク強制はおかしい!って意見もあるとは思うけど、ガイドラインはあくまでも主催者が安心安全で、楽しいイベントを作るためにあるものだしね。

まとめ

長々と書いてきたけど結局言いたいことは、リスクがある中でもできる限り安全に楽しくライブをしよう、っていう感染・安全対策の根本にがないがしろにされてない?ってこと。
リスクがある中で社会の動きに合わせて規制緩和を進めるとしても、マスクを外すとか、ダイブをするとか、リスクの高い行為をすることの意味をコロナの現状を踏まえて考えられるような情報発信をしたうえで、「自由に」判断させる動きが必要なんじゃないかってこと。

そうしないと、今回のような特大クラスターが発生することがライブ(特に大型フェス)の「前提」になりかねないし、それに不安を感じる人がライブに来なくなる原因にもなりかねない

ここまで書いてきたような、リスク・安全管理、情報発信、情報の受け取り方が考慮されることなく、規制緩和の文字に踊らされるようにライブシーンが変な方向に走り出している気がする
一回立ち止まって、客はちゃんと知る、運営はちゃんと伝えて管理することが必要なんじゃない?という、危機管理を専門性の1つとするライブ好きからの問題提起でした。

これを書いてライブシーンを変えようなんて思ってないけど、モヤモヤしてる人が考えるヒントになればいいな。