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加藤訓子アルバム 『TRIBUTE TO MIYOSHI』試聴レポート

先日、六本木でパーカッショニスト加藤訓子さんの9/25発売のニューアルバム『TRIBUTE TO MIYOSHI』試聴会に参加しました。
この会では、加藤訓子さんによるニューアルバムについての想いや簡単な解説もあり、ご本人からお話を伺う貴重な機会にもなりました。

加藤訓子さんは、アルバム『J.S.バッハ:マリンバのための無伴奏作品集』で、第10回CDショップ大賞2018のクラシック賞を受賞。2018年に、相模湖交流センターで行われたライブでは、スティーヴ・ライヒ「ドラミング」を、全てのパートを一人で多重録音し、ライブソロパートを重ねて演奏する 【世界初のドラミング・ソロパフォーマンス】を行いました。このライブでは、加藤さんの驚異的なテクニックと途切れぬ集中力、情熱に圧倒されました。

日本経済新聞のYoutubeチャンネル
「打楽器パーカッショニスト加藤訓子 ライヒ名曲1人12役」より

いつも挑戦者であり続ける、加藤訓子さんのニューアルバムが発売される。これは楽しみでないわけがない。期待に胸を膨らませて出かけました。

新アルバム『TRIBUTE TO MIYOSHI』加藤訓子+リンレコーズ第6弾 三善 晃トリビュート
クラシック音楽を中心としたレーベル、リンレコーズ初の日本人作曲家フィーチャードアルバム、ソロマリンバ作品全曲、マリンバコンチェルト、未発表のエチュードが収録された作品です。"TRIBUTE TO MIYOSHI" というタイトルの通り三善晃さんへのオマージュです。

三善晃さんは、日本を代表する作曲家として、合唱やピアノ曲の他、器楽曲にも多くの作品を残されています。2013年に逝去されました。
加藤訓子さんにとって、三善晃さんは、母校の桐朋学園の大学長でもありました。

「いつも穏やかでにこやかで、誰に対しても優しい言葉を使う先生で、
具体的に手取り足取り指示するようなことはなく、立ち姿や人に対するあり方、一言一言に重みがあり、受け入れる器の大きさを感じました。」
一方、「作品に対しては厳しく、女性的な細い姿ながら、合気道もされていたように、中身はとても強い、そういうことが曲にも表れているように思われる。」

加藤訓子さんの言葉から、三善晃さんのお人柄が伝わってきます。

いつか三善晃さんのマリンバ作品を形にしたい、その思いが今回CD化となりました。三善晃さんによるマリンバのソロ4作品、そしてコンチェルト1作品。未出版作品含め、それを1枚にまとめたのは世界初です。

加藤訓子さんは3年くらい前に、ベルギーのミュージックシアターで、谷崎潤一郎『鍵』を題材にした舞台の音楽と演奏を行いました。その舞台では、作品の時代背景を考えても、三善作品がマッチすると思い、三善晃のマリンバソロ作品3曲を使用したそうです。演奏していると、改めて重要性を感じ、より多くの人々へ伝えたい。CDにして作品として残したいと思われたそうです。

「アルバム収録曲の「会話」「トルスⅢ」「リップル」は、世界の打楽器界では、誰でも知っている、いわゆる現代マリンバのトラディショナルなレパートリーだそうです。

現在、マリンバはポピュラーになっている一方、大学ではあまり研究がされなくなっていることのが世界中で起こっているそうです。
マリンバの世界では、世界中どこに行っても、"マリンバと言えば、三善。三善の曲と言えば「トルス」だよね。"と学んできました。三善さんのマリンバ作品には、西洋人の想定外の集中力、間や瞬発力など独特なものがあります。だから、もっと三善晃の楽曲を知ってほしいと思い、今回は作品を作ったそうです。

≪アルバム収録曲について≫
組曲『会話』
三善晃さん自身マリンバを知るきっかけになった、打楽器奏者 田村拓男さんの影響で作られた曲です。田村さんからは、マリンバの楽しさ、素晴らしさを知ったことを機に、各家庭の各職場の、様ざなま会話が交わされる風景が思い浮かび、楽しくなる1曲です。

「トルス」
5つある連作です。イタリア語ではトルソーと言い、彫刻やファッションの世界で頭部、両腕もない上半身だけの胸像を指します。

三善さんご自身の解説によると、
"音の響きを、さぐるのは、どの作曲についてもいえることですが、ときには特にある発音体についてその興味が先立つので、そのようなとき、私はトルスとその曲を呼ぶことにしています。今度はそれが独奏マリンバです。"
ということ。

安倍圭子さんというマリンバ奏者(打楽器奏者)が、その頃はまだ発展途上だったマリンバを、当時、刺激的な演奏をしていて、それが曲の創作意欲にも繋がり、また今世界で普及しているマリンバの開発につながっていったそうです。

「リップル」
この曲の冒頭、耳を澄ませて聴く緊張感がたまりません。音がわずかに聞こえる程度で空気を細かく振動させているのです。リップルとはさざ波を立てる、波紋を作るという意味です。
日本人だからこそ、理解できる、感じる間合いもあるのでしょう。

「マリンバと弦楽合奏のための協奏曲」
加藤訓子さんが大学2年の時、学内オーケストラで演奏した曲です。これまでレコーディングもほとんどなく、演奏される機会もほとんどない作品です。ちなみにこの曲は、加藤さんが生まれた年に出来上がった曲です。

「六つの練習前奏曲」
三善さんが、晩年に書かれた未出版の作品、つまり世界中の誰も知られていなかった作品です。加藤さんがおっしゃるには、"三善先生がマリンバのために残してくれていた、楽器を弾く、上手くなるのに必須な練習曲。"です。

加藤訓子さんは、若手演奏家の育成にも尽力されています。未発表の曲をCDとして音源化させること、また相模湖交流センターで行われた、【世界初のドラミング・ソロパフォーマンス】など、いつも挑戦し続ける方です。
今回を通して感じたことは、優れた演奏家は素晴らしい作品の発掘者でもあり、伝導者なのだなということです。

加藤さんの演奏は、Youtubeでもいくつか観ることができますので、ぜひチェックしてみてください。

加藤訓子ニューアルバム(2020/9/25発売 CKD635)
『TRIBUTE TO MIYOSHI』
【収録情報】
三善 晃:
1. 組曲『会話』 (1962)
2. トルス III (1968)
3. リップル (1999)
4. マリンバと弦楽合奏のための協奏曲 (1969)
5. 6つの練習前奏曲 (2001)

 加藤訓子(マリンバ)
 スコティッシュ・アンサンブル(4)

 録音時期:2018年5月1,2日(1-3,5) 7月8,9日(4)
 録音場所:神奈川県立相模湖交流センター(1-3,5) グラスゴー、RSNOセンター(4)
 録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)
 SACD Hybrid
 CD STEREO/ SACD STEREO/ SACD SURROUND

 日本語解説付き(解説:三善 晃、加藤訓子)

加藤訓子ホームページ

11月5日にはトッパンホール、11月8日には豊橋市民文化会館でのコンサートを予定されています。

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