【ドラゴンのエッセイ】新しい施設

 11月下旬、施設体験に行ってきました。その直前に「頑張ります!」という決意表明の記事を上げたのでご記憶の方も多いかと思います。本日の記事は、最初に体験に行ってから現在までの動きと、私の感情の動きを書いていきます。ぜひ最後までお付き合いください!


体験初日

 まずは、11月下旬の話から。
「どういう作業が向いているか判断ができないので、まずはフルーツキャップを」という指示を受けました。フルーツキャップとは、下の画像のようなものです。

フルーツキャップ

 これは完成したものです。最初はこれの倍ほどの長さがあり、半分に織り込むことによってこの形になります。みなさんもスーパーなどで見たことがあるのではないでしょうか?
 中学生時代、校内の作業実習でこの作業をやった経験があります。その当時は見事にひとつも成功せず、先生に「もっと練習が必要だな」と言われてしまった苦い記憶がありました。
 ところがあれから10年くらい経った今は、一切怒られることなく作業をこなし切ることができたんです! 多少のやり直しはありましたが、10年ぶりのフルーツキャップだったので「これくらいで済んでよかったな。俺も若干ではあるけど成長できたのかも」なんて思いました。実際施設長と母が話した時にも「フルーツキャップの作業、ちゃんとできていましたよ」という話が姿勢長からあったそうです。母も私がフルーツキャップを苦手としていたのは知っていたので、とても驚いていました。それと同時に、喜んでもくれました。もちろん私も嬉しかったです。
 お手洗いもスタッフの介助なしで行けましたし、苦手だった作業も克服できました。やっと施設に通える。自分でお金を稼げる。そんなふうに意気揚々と帰宅し、相談員さんに「すぐにでも契約して通いたいです」と伝えてもらえるよう頼みました。

体験2日目

 施設側からの返事はこうでした。
初日の時にはフルーツキャップの作業しかしていないので、そのほかの作業の様子も見たい。そのためにもう1日体験してほしい
 もっともな話だと思いました。あの施設には常時複数の作業があります。フルーツキャップだけができるのか、他のこともできるのかということは重要なことです。
 そんなわけで2回目の体験に行ったのが11月24日。先々週の金曜日でした。

 その時任された作業は、前回やったフルーツキャップを入れるビニール袋にラベルを貼るという作業でした。ラベルがあることによって、フルーツキャップの大きさやどの果物用なのかという用途が明確になります。これも大切な作業です。
 ですがここで問題が発生しました。
 ラベルはセロハンテープを使って貼り付けるんですが、私は障がいの関係上力加減が難しく、テープを必要以上に長く切ってしまうんです。ところが商品になる以上は「規格」というものがありますよね。ラベルの向き、貼る位置、テープの長さまでミリ単位で決まっています。少しでもずれがあるとやり直しになってしまうんです。
 私は、定規を使って直線を引くことができません。小学生の頃からずっと練習していますが、いまだに正確な直線が引けたことは片手で数えられるほどしかありません。その理由は、定規が動いてしまうからです。正確には、定規を押さえている右手が動いてしまうからです。
 これと同じで、ラベルを貼るためにビニール袋を押さえていても、押さえている手が無意識に動いてしまいます。これはもう自分の意思ではどうしようもないことです。何度やっても成功しません。できるようになるとすればそれは、数ヶ月間1日100回くらい失敗を繰り返したあとでしょう。ですが、もちろんそんな余裕はありません。

 上記のことを何度か説明して、スタッフの方々もやっとこの作業は向いていないと思って下さったようです。午後から任された作業は、干し芋の袋にラベルを貼るという作業でした。今度のラベルはシールタイプで、もちろん決められた枠(シールと全く同じ大きさ)から1ミリもずれないように貼らなければいけません。
 これについては、フルーツキャップのラベルとは違う意味の難しさがあります。まず、シールを台紙から剥がさなければいけないことです。当然、剥がす時には両手を使いますよね。そして、貼る時にも両手を使わないと空気が入ってしまいます。
 これは、健常者なら一度説明されれば当たり前にできる作業でしょう。でも私には無理難題なのです。理由は、シールに両手を費やしてしまうと貼る場所である干し芋の袋を押さえられなくなってしまうからです。枠は袋を置く台紙のようなものに書いてあって、袋をその台紙の上にピッタリと重ねた状態で貼らないとダメなんです。つまりこの作業はシールを貼る動きをしながら枠が書いてある台紙、袋の2つを動かないように押さえておく必要があります。冗談ではなく、腕が4本ほしいです。
 スタッフさんに「これも難しいの?」と訊かれました。その通りなのではいと答えると「人の話をちゃんと聞いていないからだ。どうしてこんなに簡単なことができないの?」と叱られてしまいました。
「ゆっくり、落ち着いてやればきっとできるから、この人のようにゆっくり丁寧にやってみて」とアドバイスを受けました。やって見せてくれた先輩利用者の方は確かにすごく上手でしたが、スピードは私の10倍でした。私だって自分にはこの作業は難しいだろうという自覚があるので、誰よりもゆっくり丁寧にやろうということは最初から意識していました。けれどもそういう問題ではなかったんです。
 結局25回ほど挑戦して、正しくできたのは2、3回。その2、3回にしても「これならまあ……ギリギリ大丈夫かもね」というような具合でした。最終的にはその作業を監督していたスタッフさんから「君は何にもできないんだな。やる気がないの?」とまで言われてしまいました。

「それでも俺には、フルーツキャップがある。10年かけてやっとできるようになったフルーツキャップがある!」と自分に言い聞かせながら、なんとか叱責の嵐を乗り切りました。
 そして作業終了後の掃除の時間。施設長と少しだけ話ができました。そこで施設長はこう言ったのです。
今日は残念な結果でしたね。先週のフルーツキャップも9割型できていなかったし、これは相当な練習が必要ですよ
 ちょっと待ってくれ! と思いました。確かに前半部分は施設長の言うとおりです。ラベル貼りは全くと言っていいほどできていませんでした。それは認めます。でも前回、施設長は確かに言ったんです。「フルーツキャップの作業、ちゃんとできてましたよ」と。それも私にではなく、母にです。母に確認したら、確かにそう言っていたと力強く言っていました。どうやら私の記憶は間違いではないようです。
 もしかしたら、施設長は私や母に気を遣ったのかもしれません。いわゆるリップサービスをしたのかもしれない。しかしそのリップサービスをする意味が分かりません。「その施設でメインでやっている作業が全くできないやつ」である私にリップサービスをする意味があるでしょうか?

疑問点

 そのほかにもたくさん「ん?」と思うポイントがありました。まずは、私が持つ障がいである脳性まひがどのようなものかを全く理解していないこと。「まひ」というのは身体を思うように動かせない障がいです。「思うように動かせない」というのは、「自分の意思ではどうにもならない」という意味です。
 だから、現状の能力で自分にはどんなことができて、どんなことができないのかはある程度分かっています。私は必死にそれを伝えようとしました。でもスタッフには「話を聞いていないからだ」と一蹴されてしまう。もう諦めるほかないんだと腹を括りました。
 思い返せば、「あなたはどこの学校出身なの?」と聞かれた時から疑問はありました。正直に自分の出身校を答えたら「そんな学校は知らない」と言われてしまったのです。
 私の出身校は肢体不自由(手足に障がいがある方)を専門に受け入れる学校です。創立50年は軽く超えています。その学校を知らないということは、最初から肢体不自由のことなんて眼中にないのでは? と思ってしまいました。

 もうひとつ「ん?」と思ったのが、斜視についててです。みなさんの中にも斜視という言葉を聞いたことがある方、もしくは実際に斜視に悩んでいる方もいるかもしれません。
 斜視というのは、眼の筋肉の異常によって黒目が眼の中央に置けない状態のことです。言葉だけではイメージが湧きづらいと思いますので下の画像をご覧ください。

私と同じような斜視の例です。私は左目が画像よりもっと外側に入っています。

 これが私の目の状態です。見ていただければ分かるように、これは意識的にできるものではありません。
 ですがスタッフさんたちは斜視のこともご存知ないらしく、「人の話は目を見て聞けって教わらなかった? こっちを見なさい!」と怒られてしまいました。
 勘違いしないでほしいのは、この状態でも私は両目で対象物を見ています。斜視の方の目を中央に持ってくることはできませんが、ちゃんと両目で話している人のことを見ているんです。でもどれだけ「見ています」と説明しても分かってもらえない。上手く説明できない私が悪いのでしょうか?

まとめ

 端的に言うとこの施設は、私のような肢体不自由への理解が全くと言っていいほどありません。周りの人たちからも「ここはやめといた方が……」と言われるし、自分でもそう思います。
 ただ、私はもう一年近く働いていません。その間に幾つかの施設で見学や体験をさせていただきました。ところがその施設がことごとく私には合わず、今回背水の陣のような気持ちで体験に臨みました。
 肢体不自由が理解されづらい障がいだということは、この6年で嫌というほど分かりました。だからこそnoteという媒体でせめて月数千円でも稼げればと思っていました。            
 しかしそれも今の所うまくいっていません。となればもう文句を言っている次元ではない。私は腹を括ります。施設側で受け入れてくれるという判断が出れば、私は今回の施設に通います。そうでなければもう、自分のお小遣いすら稼げないので。
 まだ施設側の結論を待っている状態なので、結論が出たらまた更新します。長々とお付き合い頂き、ありがとうございました。

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