【ドラゴンのエッセイ】俺の夏

 8月のラスト更新は、やっぱりポジティブなネタで終わりたい。なので今回は、今のネガティブをすべて吐き出すつもりで書く。そして次回のエッセイでは、スーパーポジティブなネタで一本書くと決めた。なので読者のみなさん、今回だけではなく次回もぜひお付き合いください。


浮き彫りになった問題

 夏の夢なんていうテーマで本当に夢みたいな文章を書いたのはもうしばらく前になる。女子の浴衣や水着姿を一度でいいから見てみたいとかそういうやつだ。読者の中にご記憶の方はどれくらいいるだろうか?
 ……で、俺の実際の夏はどうだったかというと、もちろんそんな夢は実現していない。そもそも家からあまり出なかったから。厳密にはまだ夏は終わっていないが、おそらくこの先も実現しない。
 この夏の外出といえば、施設に通うための準備として定期的に通っていた地元の社会福祉協議会(以下、「社協」と呼ぶことにする)くらいだ。
 準備といってもめぼしい施設が見つかったわけではない。少しでも施設に通える可能性を上げている段階である。具体的には、1人でお手洗いに行けるようになってきた。
 これだけ聞くと、何を子どもじみたことを、と思う人が大半だろう。しかし私は肢体不自由。多目的トイレで手すりがあるとはいえ、安定して立っているというのは難しいのだ。いつバランスを崩して転んでもおかしくない。
 そんな状態だから母も、「お手洗いの時はズボンの上げ下げを手伝ってもらいなさい」と言っていた。保育園の頃からずっとだ。しかしそれではいつまでも誰かの手を借り続けることになってしまう。社協の相談員さんは「就労支援施設というのはそういう不自由を解消してくれるところだから」と言ってくれるのだが、実際問題施設の職員にお手洗いの介助を頼むと露骨に嫌な顔をされるから仕方がない。自分でトイレくらい行けないやつを、誰も受け取りたくなんてないのだ。手がかかるからね。

 というわけで今年の夏は、自分1人でお手洗いでの動作を完璧に遂行するための練習期間となったわけだ。身体の動きを専門に診ているリハビリの先生にアドバイスを求めたのもこのことについて。お陰でおそらくは、自分1人だけでトイレの動作を完璧にできるようになったと思う。
 しかし、自分で練習しているのに「出来るようになった」と断言できないのには理由がある。練習場所が社協しかないからだ。つまりまだ「社協のトイレでなら自分1人で動作を完璧に行えるようになった」というだけなのである。広さや手すりの配置が社協と違えば、またゼロから練習し直さなければいけない可能性もある。悲しいかな、肢体不自由とは得てしてそういうものだ。
 もっとも現時点では、その可能性は低いだろうというのが母の意見だ。初めて行く場所のトイレには一度だけ母が同行し、車椅子の停め方やどこに捕まって立つべきかなどを2人で話せば大丈夫だろうと。俺もその意見には賛成だ。ただし、少なくとも行く施設が決まるまでは社協での定期練習は必須だと思うが。
 と、ここまでだったらポジティブな話なのだが、ネガティブになるのはここからだ。万全の準備は整っているのに、受け入れてくれそうな施設が見つからないらしい。

苦しい立場

 そもそも就労支援施設に通う場合には、相談員さんの助力が不可欠である。相談員さんは文字通り俺に関するいろいろな相談に乗ってくれる。家からあまり遠いのはちょっと……とか、男性スタッフが複数いてくれる施設がいいなぁ、とかそんな感じの要望をもとに、その要望にできる限り合致する施設を見つけてきてくれる。この要望を出した時点で「わがまま言うな」と突っぱねられる場合も多い。だが俺や母にしてみれば、これらの要求は施設に安心安全に通うための最低ラインである。
 そんな必要最低限の要望が通ったとしよう。それでも、ここからが問題だ。条件の合うところが見つかったからといって、すぐに見学や体験のスケジュールが組めるわけではない。相手の問題もあるからだ。
 つまり、施設側に車いす使用者を受け入れるだけの設備がない場合があるのだ。それはスタッフが足りないということかもしれないし、トイレ介助はしてくれても身体障がい者用のトイレがないということかもしれない。今挙げたのは実際に俺が断れた時の理由だ。一番衝撃的なものだと、「施設は2階にあるんですが、うちはエレベーターがないので車いすは無理です」と断られたケースもあった。だったら「身体障がい者を受け入れる用意がある」なんていう広告を出さなければいいのにと思ったが法律上、視覚や聴覚に障がいがある場合も身体障がい者というカテゴリーになるらしい。だから広告に「身体障がい者を受け入れる」と書いてあるのにエレベーターがなくても嘘をついたことにはならないというわけだ。それでも、不親切ではあると思うが。

 そういう裏事情もあって、俺の生活圏内で受け入れてくれそうな施設がなかなか見つからない。今年の2月から施設を探しているが、見学と体験にまで漕ぎ着けたのはたったの一ヶ所。距離は多少遠かったがギリギリ許容範囲だった。だがその施設も体験してみると問題点が多く、通所は諦めようという結論になった。最終的にはスタッフからはっきりと「車いすは邪魔なんだよな」と言われてしまう始末だったので仕方がない。これが7月の話だ。確か夏休み期間より前だったと思う。

 そんなことがあったのとこの夏の異常とも言える暑さから、夏休み期間は施設見学を入れないということになった。体力的にも精神的にもその方がよかった。
 だがその夏休みももう終わる。流石にもう心の傷は癒えつつあるが、暑さの方は一向に落ち着く気配がない。暑いとそれだけで体力が奪われるのは万人の悩みだと思うが、俺の場合は体力ゲージのマックスが健常者より少ない。できれば毎日、最高気温30度前後でお願いしたい。まあ、無理だろうけど(笑)。

まとめ

 例えば、「ドラゴンさん、今年の夏はどうでしたか?」という質問が来たとしよう。俺の答えはひとつだ。「一夏を練習に費やしたことで、やっと1人でお手洗いに行けるようになりました」。記事の序盤で長々と説明してはみたものの、これがどれほどレベルの高いことかというのはイマイチ伝わっていない気がする。ものすごく単純に言うのであれば「アルバイトから正社員になれました!」くらいの達成感だ。こうやって不特定多数に報告したくなる気持ちも分かってほしい。
 とはいえ、この感覚は健常者には伝わりづらいということも分かっている。そして何より、(新たにできることが増えたとはいえ)夏の思い出が社協だけというのは少々虚しくもある。けれども、今さらそれをいっても仕方がないので俺は決めた。
 来年の夏までには自分でできることをもっと増やし、仕事もプライベートも充実させよう! と。
 日常動作については練習を重ねればある程度のことはできるようになっていくだろうし、このnoteに関しても閲覧数は伸び傾向にある(特にこのエッセイコーナー)。施設に通うという道がどうしても厳しいとなった場合には、一本あたりの値段は下げつつも全面有料化に踏み切るかもしれない。もちろんまだ何も確定はしていないが、いろんな練習にしてもnoteの執筆にしても、それくらいの覚悟は持っている。読者のみなさんには、この覚悟だけでも分かってほしい。

次回予告

 さて、次回のエッセイだが、しばらく前から温めていた企画をやる。これこそ執筆にどれくらいかかるかは分からないが、作家を目指す人間の本気をみなさんに楽しんで頂ければと考えている。企画のヒントは「現在再放送中のドラマ」。ここで企画内容までピンと来た人は天才だと思う。
 それでは、また次回の記事でお会いしましょう!
 ご意見ご感想、いつでもお気軽にお寄せください!
 以上、ドラゴンでした🐉

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