名曲712 「未来コオロギ」【スピッツ】

ーーしょっぱなで名盤と感じたリード曲ーー

【スピッツ・未来コオロギ (doodle)】

 最初の1秒でぐっと心が惹かれる曲というのはなかなかない。パッと思い浮かんだのは久保田早紀の「異邦人」。みなさんおなじみの名曲だが、ファーストインパクトというのはあまりにも大きい要素なのだ。曲だけにあらず。いろいろと。

 「小さな生き物」というアルバムが発売されたころ、私はどっぷりスピッツの沼にハマっていた時期で、それはそれは購入を楽しみにしていたものだった。自分のお金で買うのはなかなか抵抗があるもので、新版をあえてスルーし、TSUTAYAのレンタルを待ったなんてことも当時はよくあった。愛がどうだとかそれは仕方がない。学生の思い出である。このケチ精神がだね、後々の人生に……まあ置いといて。

 この曲は1曲目に収録されている。つまり最初に出会うわけで、ファンはどれどれと舌なめずりするたまらない瞬間だ。気分高揚、さあ待ち焦がれた新曲。ハードルはすっかり上がりきっていた。

 そしたらもう、度肝を抜かれてしまったのだ。なんじゃこのイントロは。驚いたところにスーッと違和感なく飛び込んでくる草野正宗の歌声よ。あれっ、もうサビに入ったか。まだか? いやもうサビっぽいなこのクオリティは。そんなワクワクをしていたら。

 ピーンと糸を張ったように、シリアスな旋律。どこかか細い。その正体が未来コオロギだった。それは期待か儚さか。何を暗示しているのかは聞いているその時々の心境によって変わってくるのだろう。サビ以外が盛り上がっていて、どこか元気な様子も見て取れる。短命なだけに切ない。

 スピッツの中でもトップクラスでかっこいいイントロだと思う。ファンの人気も高い。これが1曲目というのがまた大きかった。いつもなら「こんな名曲作れるんだったらシングルにすればいいのに」と言うところだけれど、思わぬサプライズに満足。心にぽっかり穴があいたときに、優しく染み渡る。リリリリリと。


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