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(音楽話)95: James “Tomorrow” (original in 1997)

【明日】

James “Tomorrow” (original in 1997)

明日(tomorrow)という言葉があります。文字通り、明くる日。
とても強い言葉だと私は思います。なぜなら、日が明けることが前提だからです。

明日はやって来ることを、私たちはごく当然のように受け止めています。「今週の水曜は++して、金曜は◯◯があって、土曜日は〜」など。それって、明日以降が確実にやって来ることが大前提です。

でも、明日が来ることを、誰が保証していますか?
あなたに明くる日が来ると、誰が言ってますか?

Jamesは英国・マンチェスター出身のバンド。日本ではほぼ知られていませんが、英国では特に90年代、国民的バンドのひとつでした。結成は1982年で、2000年代に入って解散状態だった時期もありますが、40年以上経った今でもライヴを主体に活動しています。
私が彼らを知ったのは、90年代初頃、フジテレビ系列で放映されていた深夜の音楽番組『Beat UK』でした。”Sit Down”(代表曲)のライヴ映像や”Say Something”(名曲)のPVが流れ、そのメロディのキャッチーさと穏やかなヴォーカリゼーション、音重ねが美しいバンド・サウンドに惹かれたものです。今でも時々聴いています。

“Tomorrow”は7枚目のアルバム『Whiplash』(1997)の冒頭曲で、アコギのコード・カッティングと伸びやかなヴォーカル(Tim Booth)の爽快感、リズム・リフの心地良さが素晴らしい佳曲。

君は強く縛られ過ぎているんだ
それじゃどんなことしたって 愛を掴めないよ
道は開けると信じなくちゃ
運が向いてくるって信じてみようよ
明日になればきっと

(James "Tomorrow" 意訳)

当時、漠然と過ぎていく時間に不安でしかなかった自分に、この歌詞はとても刺さりました。そして人生の時々において今でも都度、私に投げかけてきます。「頭固くなってないかい?もっと自由に、もっと自分を大切にして生きるべきじゃない?」と。

90年代半ば、英国の一大音楽狂騒ブームだった「ブリット・ポップ」の流れは、OasisBlurという世界的に人気を博す2つのバケモノを生み出しました。その彼らも「明日」をテーマにした曲を作っていて、Oasisは『この先何が起こるなんてわからねえんだから 起き上がれよ』と聴く者のケツを叩き(”(What’s The Story) Morning Glory”)、Blurは『クソみたいな世界だけど 僕たち明日のために踏ん張らなきゃ』と皮肉を込めて若干嘆き気味に嘯いてみせました(”For Tomorrow”)。

しかし彼らより遥か先輩のJamesは、そういう季節はとっくに過ぎていて、『何物にも縛られずに自由に生きようよ』と歌いました。
それがどんなに、当時の私を救ったことか。

明日が来る保証はどこにもありません。でもそれを悲観するのではなく、だからこそ、今を大切にして、もっと自由に、もっと高らかに人生を味わうべき。人生で起こる様々な事象のひとつひとつに一喜一憂しながらも、私たちは、今を生きなくては。
それなりの年齢になって何言ってんだコイツ、という感じですが、この曲を聴く度に私は今もそう思うのです。

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