見出し画像

(音楽話)89: Peggy Lee “Black Coffee” (1953)

【前向きなヤサグレ】

Peggy Lee “Black Coffee” (1953)

Peggy Lee、本名Norma Deloris Egstrom。70年ものキャリアを誇った大御所シンガー。

1920年米国ノース・ダコタ州ジェームズタウンで、北欧系両親の下に誕生。カリフォルニアで働きながらデビューのチャンスを狙っていた際、当時バンド専属の新しいシンガーを探していたBenny Goodmanの目に留まり、彼のバンドで2年間歌い、運命が回り始めます
アップテンポで軽やかな”It’s a Good Day”(1950)、ディズニー映画「Lady and the Tramp/わんわん物語」挿入歌”He’s a Tramp/ホワット・ア・ドッグ”(1955)、彼女の代表曲“Fever”(1958)、後に「Sweet Charity」というミュージカルや映画の題材になった”Big Spender”(1966)、Paul McCartneyがPeggyにプレゼントした”Let’s Love”(1974)など、自身の声色=Soft & Coolと形容された、ソフトで繊細なハスキー・ヴォイスを駆使した楽曲たちが有名。そして、彼女は自身で作詞作曲することが大半な、いわゆるSSWの先駆者でもあります。
90年代まで活動を続け、時に車椅子で歌っていたこともあったそうですが、2002年心臓発作で逝去、81歳でした。

Black Coffee”は53年の同名アルバム、1曲目に収録されています。ちょっと気怠い空気感に、当時33歳の彼女のクールな歌声がとても合ってる。
「ブラックコーヒー」と「タバコ」という、ちょっとキツい刺激物を味わいながら、出て行った勝手気ままな男のことを想う。「愛なんて所詮 安物のビール」と嘯きつつ、何事にも力が入らない日々。「もしかしたらアイツ 戻ってくるかも」とどっかで期待しながら、それが叶わないことも知っているーーージャズというよりもうブルース。悲しく寂しい歌ですが、Peggyの歌声の奥底に芯の強さというか、前を向いている姿勢、懐の深さを感じるのは気のせいでしょうか?

このPVの出所は不明。投稿者が自身で作った…んでしょうかねぇ。どっかの店の中だし、コーヒーに砂糖入れちゃうし、歌で描かれる描写とはかなり違うけど、タバコを燻らせて少し投げやりでやさぐれてるような仕草は、イイ感じ。

みんな、気を張って生きているけど、少しは毒吐いてもいいんじゃないですか?ヤサグレたっていいんじゃないですか?それが結果的に、前向きに生きることに繋がるわけですし。

ちなみに「やさぐれる」は英語で「sulk」「be peevish」、ちょっと飛躍すると「outlaw」。気難しくなっちゃうと大変だし(peevish)、法から外れちゃってもさすがにマズい(outlaw)ので、せめて「sulk」、Peggyのように「前向きにsulk」でお願いします謎

良い週末を。

+++++++++

ひどく孤独を 感じてしまって
一睡もできなかったわ
部屋を歩き回って ドアを気にして
その間に私は飲むのよ
ブラックコーヒーを
愛なんてお下がりの 安いビールのようなもの
日曜なんて 知りっこないでしょ
こんな平日しか 知らない部屋じゃ

影に向かって話しかけてる
1時から4時のあいだに
神様、時間てなんでこんなにノロいのよ
淹れるくらいしか することない時に
ブラックコーヒーを
ブルースに目が 釘づけになっちゃうから
私月曜ってダラダラしてる、日曜の夢を乾かさなきゃいけないの

男って 愛を求めて生まれてくるけど
女は 泣いて思い悩むために生まれてくるようなもの
家に篭って オーヴンを使って
昔の後悔に埋もれるのよ コーヒーとタバコと一緒に

朝は いつだって物憂げで
夜は 大概嘆き悲しんでる
そのあいだはずっと ニコチンだらけ
何するにしても 気合なんて入らない
ブラックコーヒーは
地に足着くくらい 私を沈ませる
もう気が 触れてしまいそう
想いを巡らす あの人もしかして戻ってくるかもなんて

(Peggy Lee “Black Coffee” 意訳)

(紹介する全ての音楽およびその画像・動画の著作権・肖像権等は、各権利所有者に帰属いたします。本note掲載内容はあくまで個人の楽しむ範囲のものであって、それらの権利を侵害することを意図していません)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?