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(音楽話)74: The Who “A Quick One” (1968)

【究極】

The Who “A Quick One” (1968)

1960年代は、それ以降の世界を変えたバンドが4つ、英国に生まれました。それはThe BeatlesThe Rolling StonesThe WhoLed Zeppelinです。世界というと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、音楽の領域にかぎらず、世界全体を大きく変えたと言っても大袈裟ではありません。
(60年代の英国ならThe KinksPink FloydBlack SabbathFleetwood MacGenesisDeep Purpleもいるじゃん、と多方面からお叱りを受けそうですが…ここは多めに見てやってください泣)

例えばStones彼らがいなければ、80年代以降のスタジアム・クラスでの大規模ド派手ライヴは、今その姿形は無かったはずです。
超巨大なライヴでないと観客の需要に応えられなくなった彼ら。従来の枠組みではキャパ面も安全面も維持が困難、実際ライヴ中に死者が出る事件まで起こりました。そこで彼らはライヴ・ツアー自体を完全にパッケージ化し、それを分解して都市から都市へと巡っていく形式を生み出しました。現在行われている大規模ライヴツアーの原型は、彼らが創出したのです。

例えばZep彼らの轟音ギター・サウンドは確実に機材の進化を誘発しました。
それまで、単にアンプで音を歪ませるのは限度があったし、エフェクター群のノイズは現代ほど手軽に操作できませんでした。彼ら(というかJimmy Page)の要求を満たすエフェクターやアンプの改善・進化は、彼らのライヴには不可欠な要素。そんなサウンドに世界中のフォロワーが憧れ、追随し、さらなるオリジナルを目指していったのです。

Beatlesは省略します笑 誰もが知ってるでしょうし。

ではThe Whoは何をもたらしたのか?彼らは…何ももたらしませんでした
…ん?話が矛盾してる?そして某御仁からすっごく怒られる予感しかありませんが、話を続けます笑

1968年にStonesが製作した「The Rolling Stones Rock and Roll Circus」という映像作品があります。当時公開予定が中止=お蔵入り、解禁されたのは96年…実に約30年後のことでした。「サーカス小屋に集まったミュージシャン達」的なテーマで、そこに出演したのはStonesJohn LennonJethro TullMarianne FaithfulThe Whoなど。見どころは、BeatlesのJohnが、最新曲”Yer Blues”(Beatlesとして人前でライヴ演奏したことは一度も無かった曲)を、Mitch Mitchell (Dr。Jimi Hendrix Experience)、Eric Clapton (G)、Keith Richards (B)、John (G)というトンデモないメンツで演奏する姿、というのが一般的でしょう。

しかし。この映像作品最大のヤマ場は、このThe Who “A Quick One”です。異論は認めません。

映像ご覧ください。ちなみに彼ら当時、20代半ばです。こんな演奏、誰ができますか?生演奏ですよ?オーヴァーダブは一切無し、曲構成が複雑でリズムもキーも変化しまくるってだけで覚えるのも一苦労。それをこの4人は…。

バケモノ1: ベースJohn Entwistle。よく聴いてみてください、あり得ないレベルでベースラインが畝ってます。複雑で手数の多い音に反してゆったり弾いてるような運指…整合性が全く取れません。物理法則が通用しない。弾きながらファルセット・コーラスをカマす違和感たるや。恐怖

バケモノ2: ヴォーカルRoger Daltrey。一聴するとマトモに聴こえますがちょっと待って。この発声の力強さ、声の通り方は異常です。マイク振り回すパフォーマンスは別にどうでもいいけど、ノド=100%筋肉と思わせる屈強精悍な声。強烈なオス感。真似できそうで到底できません。悪魔

バケモノ3: ギターPete Townshend。このバンドの象徴であり、手をブンブン振り回してギターを鳴らす元祖鼻デカ兄やん。ライヴ映像のどれを観ても基本ハイ・テンションですが、ここでの彼はリミッターが振り切れて針すら見えない。でもしっかりキープされたリズムとフレーズ。狂気

バケモノ4: ドラムスKeith Moon。誰が見てもわかると思います、もはや事故です。そもそもリズムをどう取ってるのか判らない。オカズの入れ方、タイミング、叩く位置、力の入れ加減…ZepのJohn Bonhamの方がまだマシ。Bonzoは真似できますがKeithはムリ、絶対。バカです、バカ
(映像でもわかりますが超歌いたがりでもあります。が、あまり巧くなかったので周りが許してくれなかったそうです笑)

「恐怖」「悪魔」「狂気」「バカ」がいるバンド、それがThe Who。そもそもそんなバンドは彼ら以外、古今東西どこにも存在しない。だからその音楽性は結果的に唯一無比再現不能
BeatlesもStonesもZepも、多くのフォロワーたちがそこを目指し、新たな音楽性を手に入れてきました。しかしThe Whoを目指したフォロワーたちはやがて愕然とするのです、辿り着けないとバンドの究極を突き詰めていくとこうなることを、彼ら以外に誰も到達できない場所があることを、教えてくれた。だからある意味、彼らは「何ももたらさなかった」のです。

まさに究極のバンド・The Who。Beatlesは『天才3人+秀才1人』の「奇跡」でしたが、The Whoは『バケモノ4人』の「究極」です…コノ想イ、伝ワリマスカ…?
(Stonesは?Zepは?…追々触れますのでお待ちくだされ)

良い週末を笑

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