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(音楽話)44: ちあきなおみ "かもめの街" (1988)

【孤独】

ちあきなおみ “かもめの街” (1988)

シンガーの最高峰のひとりはちあきなおみだと思ってます。

いつ、なぜ好きになったのか覚えていません…あ、もしかするとキッカケは「喝采」をモノマネしたコロッケだったかもしれません笑 とにかく、幼少期には私は既に彼女(とジュリー)の虜になってました。

圧倒的な声の力と表現力。しかも声に乗せた情感だけでなく、その仕草や表情、立ち姿、指先、毛先、全てから溢れ出す感情の迸りは、幼い私でさえ感じ取ってしまうほどのオーラを放っていました。そしてジャンル不問どころか、全て自分色に染めて極上の歌体験をもたらしてくれる、恐ろしい程のクオリティの高さ。聴いてるこちらが思わずニヤけてしまうような。古今東西、日本でこの崇高な地平を眺めることができたシンガーは、美空ひばりと越路吹雪とちあきなおみだけだと、私は今でも思っています。

彼女は1992年9月に夫と死別後、事実上引退状態となってもう30年近く経ちます。その間何度か再評価ブームがありましたが、それでも復帰せず。今年(2021)で74歳になるそうです。

この歌は昭和63年(1988)のアルバム「伝わりますか」に収録されたもので、彼女の後期代表曲のひとつ。私をよくご存知の方ならお分かりかと思いますが、私がたまに調子に乗ってカラオケで無謀にも歌ってしまう、アレです笑
地方の寂れた港町にあるスナックのママが、店が終わって酔い醒ましに朝方港にフラッと向かい呟くのは、孤独、寂寥、諦念、虚無。沖のカモメは啼くだけ…それでもただ日が巡ることに抗おうとするなけなしの力。初めて聴いた時、歌というより物語、ミニドラマを聴いているような感覚になって歌世界に完全に襲われ、ものすごく悲しくなったことを覚えています。
映像はその88年、「加山雄三ショー」出演時のもの。イントロからアウトロまで徹頭徹尾、入り込んでいます。圧倒的な歌唱。曲調的にも歌詞的にも演歌そのもの。聴く者の心にダイレクトに刺さります。これが歌であり、シンガーです。
ジャンル云々、関係ない。音程云々、関係ない。声質云々、関係ない。歌世界を丸々、圧倒的な世界観で届けてくれる…まるで漫画「呪術廻戦」でいうところの領域展開…あぁ止めておきます笑

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やっと店が終わって ほろ酔いで坂を下りる頃
白茶けたお天道が 浜辺を染め始めるのさ
そんなやりきれなさは 夜眠る人にゃわからないさ
波止場に出れば カモメがブイに2、3羽
一服しながらぼんやり 潮風に吹かれてみるのが
あたしは好きなのさ

カモメよ カモメよ 淋しかないか
帰る故郷があるじゃなし
おまえも一生 波の上
あたしも一生 波の上
ああ ああ ドンブラコ

いろんな人が居たし いろんな人が居なくなった
泣いてくれるのは カモメと霧笛ばかり
一服しながらあれこれ 取り止めなく懐かしむのが
あたしは好きなのさ

カモメよ カモメよ 風邪などひくな
絹の寝床があるじゃなし
おまえも一生 波の上
あたしも一生 波の上
ああ ああ ドンブラコ

カモメよ カモメよ 嗚呼 あぁあ

(ちあきなおみ “かもめの街”)

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