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(音楽話)78: Robert Palmer “Girl U Want” (1994)

【天性】

Robert Palmer “Girl U Want” (1994)

容姿もヘアスタイルも性格も言動も、人間は変える・変わることができます。それがたとえ痛みを伴ったり無理をしたり危険を冒すとしても、変化させることは可能。しかし、変えることが極めて困難なものがあります。

それは、です。

ハードロックのしわがれ声に憧れて喉を潰すとか、美しいソプラノ声を目指してボイトレし発声法を学ぶとか、枯れない声を手に入れたくて喉の筋肉を鍛えるとか、声を変化させることは可能ではあります。が、根本を変えることはほぼ不可能です。生まれ持った声の色と、人間は一生付き合っていかなくてはいけない
(長年のアルコール、ドラッグ、不摂生などによっての変化ってのがありますが、これは大抵意図していないし「衰え」「自業自得」と言われかねない)

Robert Palmerは、その声自体が天性のシンガーでした。

1949年英国北部ヨークシャー生まれ。72年にジャズ系/フュージョン系バンドVinegar Joeのヴォーカルとしてデビューするも売れず。しかしその歌声に酔う人は多く、74年にソロ・デビュー。ファンクやブラック・コンテンポラリーをベースとした音楽性ですが、いわゆるブルー・アイド・ソウルとは異なり、彼の歌声には良い意味で人種性がありませんでした。白人でも黒人でもない声ーーー誰も手にしたくても手にできない特異性を、彼は天性で持っていました

いくつかのヒット曲はあるものの大きく跳ねなかった彼が注目されたのは、85年のThe Power Stationへの参加でした。Duran DuranAndy Taylorが、彼の憧れだったRobertに声を掛けて実現したプロジェクトで、”Some Like It Hot””Get It On (Bang a Gong)”が世界中でヒット。この勢いのままRobertはアルバム「Riptide」(1985)を発表、そこで”Addicted to Love/恋におぼれて”が大ヒットします。多数のモデル体型でボディ・コンシャスな女性たちが無機質・無表情で、歌うRobertの後ろでクネクネしてるだけのPVはある種ポスト・モダン的でインパクトが大きく、MTVでガンガン流れました(この曲でグラミー受賞)。
88年には”Simply Irresistible/この愛にすべてを”が再びヒット→2度目のグラミー受賞。派手でラウドなサウンドで突き進む一方で、元々のブラック・コンテンポラリー的なアプローチも行い、”Mercy Mercy Me/I Want You”(1990)もヒットしました。その後97年にはRod Stewartと英国ウェンブリー・アリーナでライヴを行うなど精力的に活動を続けましたが、2003年フランス・パリのホテルで心臓発作で急逝。54歳の若さでした。
(1日60本以上も吸う超ヘヴィー・スモーカーだったそうです)

Girl U Want”は94年のアルバム「Honey」収録。元々は米国バンドDEVOの1980年リリース曲。そういえば現在、地元・米国オハイオ州アクロン市が彼らをロックの殿堂入りさせるべく(2021年ノミネート中)、4月1日を「DEVO Day」に制定してキャンペーン打ってます…なんかすごい笑
彼らはニューウェーヴ・サウンドでピコピコしてますがメロディはキャッチーで中毒性高し。ちなみにThe Knack”My Sharona”を意識して作ったんだとか…あーなるほど…そ、そうですか。

DEVO “Girl U Want”

Robertはこの曲を、至極派手なギターサウンドと当時流行ったデジタル系サウンドを混ぜ込んでカヴァーしています。いわゆる「デジロック」、ちょっと下世話で毳毳しいサウンドかしら。日本でも布袋寅泰とかBOOM BOOM SATELLITESとかがこんなサウンドで流行り始めてた時代です、この曲が日本でちょっとウケた理由も頷けます。
しかし、どんなサウンドであろうとも、それを凌駕するRobertの声質に驚きます。流行りの声というか、特定ジャンルに適した声というか、多くのシンガーにはそうした特徴があるものですが、彼にはそれがない。とてもセクシーで中低音が響く独特の声質どんなジャンルの音楽を歌っても、それらは全て彼の色に染まる強さ。これは天賦の才以外の何者でもありません。カッコいい。

こういう声、羨ましいですね。はーカラオケ行きたい。

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