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(音楽話)101: Sly & the Family Stone “I Want To Take You Higher” (1968)

【有言実行】
Sly & the Family Stone “I Want To Take You Higher” (1968)

その時々の社会が色濃く反映され、形を変えてきた音楽。その一方で、いまだに「音楽は政治と無関係だ」「たかがミュージシャン風情が社会問題に首を突っ込むな」などと平然と口にする方をお見掛けします。

森羅万象すべての物事は、社会と無関係では存在し得ません。そして、社会を形づくるのは、人間が生み出すすべてを包含しますし、その影響を受ける自然もまた、社会そのものです。つまり、政治だろうが、経済だろうが、技術だろうが、文化だろうが、自然だろうが、人間がそれを発露し、人間がそれを行使し、人間がそれの影響を受ける以上、その人間が生み出す音楽が、それらから受けた影響を含まないわけがありません。

60年代後半〜70年代初、Sly Stoneという強烈な人がいました。

1943年米国テキサス州生まれ。家族でカリフォルニアに移住した後、52年には弟妹とバンドを結成しローカルで活動を開始。その後他者への楽曲提供やラジオ局DJなどを経て、66年にSly & the Family Stoneを結成します。Slyは派手に見えますが、長い下積み・苦労があったようです。
そしてついに、68年に”Dance To The Music”がヒット、”Everyday People”が全米1位を獲得。そしてアルバム「Stand!」の大ヒット、ウッドストックへの出演をもって、時代の寵児となります。しかし本人のドラッグ中毒が悪化し、ライヴの遅刻やドタキャン、奇行が徐々に目立つようになったり、ブラックパンサーから「白人メンバーを外せ」と脅迫されたり、諸々が重なってバンド活動は停滞し75年に活動停止となります。以降はソロ活動などを行いましたが全盛期の勢いは取り戻せず、現在はほぼ隠遁生活を送っているそうです。

SlyはラジオDJ時代、様々な音楽をかけていました。人種・ジャンル不問で、James BrownBob DylanThe BeatlesThe Rolling Stonesも流していたそうです。それは彼の音楽への姿勢そのものを表していて、60年代にいくつか結成した彼のバンドやグループは人種混合でした。彼にレイシズムは存在せず、社会に残るそれを打破したい想いは非常に強かったのではないかと思います。”Everyday People”の歌詞はその想いが込められていますし、今でも説得力が強いです。

“I Want To Take You Higher”は69年のアルバム「Stand!」収録曲。映像はEd Sullivan Showの68年末SPでの演奏なので、この時点で観客は初めて聴いた曲かもしれません。

完全な生演奏。このグルーヴ感、ソウル、R&B、ファンク、ロックなどの要素がありつつちゃんとポップ。体が動かないわけがない。

ギターは弟Freddie、キーボード/ヴォーカルは妹Rose。トランペットはSlyの高校のクラスメイト。ベースはあのLarry Graham(スラップ奏法=チョッパーベースの始祖!)。ドラムスとサックスは白人。いろんな要素が混じってますが、彼の音楽性そのものを表している気がします。
曲構成、ビート、ドラムス音の抜け感、ギター・カッティングの心地良さ、ブラスの高揚感、ベースの安定具合、コーラスの美しさ…挙げたらキリがないほどの充実ぶり。既に完成されています。唯一の違和感は「Sly、首輪締め過ぎじゃない?」くらいですが。

彼の音楽は後世に途轍もなく影響しました。彼無くしては、恐らく70年代以降のモータウンやR&B、ロックのミクスチャー性、ポップな曲構成など、違う方向性になっていたはずですし、影響を受けた人として彼の名前を挙げるシンガー、ミュージシャンは、それこそ無数にいます。
Slyたちの演奏では冒頭、ギターとベースがそれぞれヴォーカルを取りますが、Princeが”1999”でほぼ同じことをやってます。本当に心の底からSlyを大好きで憧れだったことが、これだけでわかりますよね。

Prince “1999”(1982)

曲途中でSlyとRoseが客席に移動して歌うシーン。客席は戸惑いながら手拍子する様子が興味深い。新曲だからノリ切れなかったのか、当時はそういうノリだったのか、黒人音楽に白人たちが冷めた目で見ていたのか、どうなんでしょう?一部の客がノリノリで手拍子しているのが救いです。

歌詞は「お前をハイにしたいんだ」ですが(69年の正規版はもっと歌詞が作り込まれています)、この裏に込められた想いが深いことはほぼ間違いない。”Music lovers, all I wanna do is I want to take you higher!”とSlyが歌っていることが全て。「人種だの宗教だの関係なく、みんなでハイになりたいからこの音を鳴らしているんだ」と私には聴こえます。
「実際俺たちは人種関係なくこんなイカしたバンドでイカした音を鳴らしてるんだぜ、みんなもおいでよ」という有言実行ぶり。彼の出自(父は教会の助祭=教会音楽がルーツ)からきているのかもしれませんが、お互いを尊敬し合い、お互いを高めていく関係性ー私たちはその理想を未だに実現できていないのではないでしょうか?

色々考えさせられる曲です。

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