(音楽話)85: Joanna Connor Band “Walkin’ Blues” (2014)
【心の器】
Joanna Connor Band “Walkin’ Blues” (2014)
注意: ブルースと聞いて退屈だと思われる方、この曲聴かない方がいいかも、6分近いブルースなのでm(_ _)m 但し聴くとニヤつくこと間違いなしですよぉ…
皆さんに大事なことをお伺いします。
皆さんの生活にブルースはありますか?
人生は人それぞれだけど、嘆きたくなる時、ポジティヴなことを一切考えずに今はただ絶望に浸りたい時、恨み節のひとつでも呟きたい時って、あると思うんです。そんな時、「弱音を吐くな」「強くあれ」「大丈夫」といった叱咤激励を投げかけてくれる人がいる。その多くは相手を想ってのことなので本当に有り難いんですが、それってある意味無責任だと思うこともあります。それらの言葉が、相手にとっていかに鋭利で眩し過ぎて逆効果なこともあり得るか、発言者自身がそうしたことに無頓着だったりすることが多いからです。
だから、人はブルースに吸い寄せられる。
不毛、嘆き、後悔、諦念ーーーブルースとはそういうものの器。元々は、奴隷という過酷で劣悪な環境を強いられ、耐え忍び、それが制度的には解放されてもその重荷を背負わされ続け苦しんできた黒人たちが、一瞬でもそれらを忘れ去るために歌の中で思いの丈をぶちまけたもの。そうでもしないとやってられなかったーーーそんな圧倒的苦痛と比べるべきではないですが、やがて誰しもがそれぞれの内にブルースがあることに気づき、人種を超えブルースは浸透していった。
「やってられない」感情を受け止める器って、貴重で重要です。
Joanna Connorは1962年米国ニューヨーク州ブルックリン生まれ、マサチューセッツ州ウースター出身。母親の影響でブルースもロックもフォークも聴いて特にブルースに傾倒、10代半ばには既に自分のバンドでプレイしていたようです。84年にシカゴに移住するとBuddy Guyをはじめとするシカゴ・ブルースを全身に浴び、89年にレコード・デビュー。以降ブルースのギタリストとして、バンドリーダーとして、数々のアルバムをリリースしつつ多くのライヴ出演でキャリアを積んでいます。その一方で、娘のプロ・バスケ選手になる夢を応援するため、一時期活動を縮小したほどの子煩悩ぶり。肝っ玉母ちゃんでもあります。
そんな彼女の、とある日の、ちょっとした小さな野外ライヴ模様。「Make some noise now!」と言って始める曲は”Walkin’ Blues”。1930年にSun Houseが発表したブルースのスタンダード曲です(Robert Johnsonヴァージョンです)。
パキッとしていてカントリーの匂いすらするJoannaの凛々しいヴォーカルが嘆くのは「朝起きたら靴を探す」「ブルースを身につけなきゃいけないのよ」、でも「ブルースを身に纏うのは悪くないって言う人もいるけど」「私からしたら最悪よ」。
身も蓋もない、どうでもいい、どうにもならないこと。それを嘆いて感情の塊を音にして投げ出していくーJoannaのスライド・ギターは単なるブルースのそれだけではなく、過去数十年のギター奏法がそこかしこで登場してきます。仕舞いにはライトハンドまでやってる…手数の鬼。ピッキングが的確で力強く、アタックが弱くて聴こえないなんて音は皆無。圧巻。切れ味鋭いスライドの捻り方はまるでJohnny Winter…でもその野太さや音の厚みは独特。ニヤケちゃいますねぇ。ドラムスがギターソロの裏でほぼ踊ってますが気持ちスゲー分かります笑
(ドラムスのなんちゅうリズム感とフレーズ…相当のバカです←良い意味でですよ!)
間違ってほしくないのですが、ブルース自体にネガティヴになってはいけません。ネガティヴな感情をぶつけて音に昇華させることで、ほんの少しでも心の綻びを癒すこと、それがブルースという心の器です。お忘れなく。
皆さんの生活にブルースはありますか?
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